また、虚実それぞれのパートに登場する多彩なキャストも大きな見どころだ。八犬士には、板垣李光人や水上恒司ら若手注目株が抜擢され、華麗なアクションを生き生きと披露。彼らの運命を握る伏姫を演じる土屋は、清らかさと包容力をもって存在感を見せる。聖母のような伏姫とは対照的なキャラクター、最大の敵である玉梓を演じたのは栗山。凄みのある表情も美しく恐ろしい、怨念に満ちた悪女を怪演した。

現実世界に生きる市井の人の日常をリアルに体現したのは、馬琴の妻・お百を演じる寺島だ。執筆ばかりで家庭を顧みない夫に愚痴を溢し悪態をつく強い妻を、寺島が躊躇なく体現し、生々しい人間らしさを強烈に印象づける。息子・宗伯役の磯村、その妻・お路役の黒木も馬琴の良き理解者としてその偉業を献身的に支えるなど、己に与えられた使命を全うすべく懸命に生きる人とその家族の姿が映し出される。

さらに、落語・歌舞伎界からもベテラン勢が重要な役どころで出演。歌舞伎狂言作者・鶴屋南北を落語家・立川談春が演じ、創作への考えの違いで馬琴と対峙する。その南北の代表作「東海道四谷怪談」の名場面を、歌舞伎役者の中村獅童と尾上右近が 200年の時を越えて演じることも感慨深い。

28年の歳月をかけて書き続けた馬琴の奇跡の実話と、「八犬伝」の迫力ある映像が交錯する大作時代劇。幾多の困難を乗り越えて正義を貫く物語を、曽利監督と役所ら豪華キャストたちが強い情熱を注いで完成させた。

文＝中川菜都美