当時16歳の深津絵里の魅力が全開!教師役の寺脇康文の繊細な演技も光る 映像技術に頼らない昭和ホラー「満月のくちづけ」

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「満月のくちづけ」で主人公を演じた深津絵里と美術教師役を演じた寺脇康文
「満月のくちづけ」で主人公を演じた深津絵里と美術教師役を演じた寺脇康文

(C)アミューズ

2025年9月公開予定の映画「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」(オダギリジョー監督)に、深津絵里が出演することが話題になった。深津の映画出演は、「サバイバルファミリー」以来8年ぶりのことだ。「踊る大捜査線」シリーズの恩田すみれ役をはじめ、映画「悪人」(2010年)や「岸辺の旅」(2015年)などで映画賞を総なめするなど、その演技力を高く評価されている彼女だけに、8年ぶりの映画出演は楽しみである。

そんな実力派俳優の深津が、初めて単独映画主演を果たした作品が、1989年に公開された「満月のくちづけ」だ。劇団SET(スーパー・エキセントリック・シアター)座長の三宅裕司が製作総指揮を務め、同劇団の俳優陣がこぞって共演。寺脇康文が準主役で重要人物を演じているほか、創立メンバーの八木橋修や、山崎大輔が教師役。小倉久寛と三宅本人もワンシーンずつカメオ出演している。

■寺脇康文演じる美術教師に恋する主人公を深津が好演

本作は、ジャンルとしては学園サスペンスホラーに位置づけられる。ある女子高を舞台に、恋を叶えるために"恋魔術"の儀式を行っていた主人公たちが、誤って悪霊を呼び出してしまったために恐ろしい惨劇が起こっていく...という物語だ。

とある女子高校に通う少女・高原里絵(深津絵里)は、美術の沢田先生(寺脇康文)に淡い恋心を抱いていた。しかしハンサムで紳士的な沢田は女生徒からの人気が抜群。厳格な校風で閉鎖的な学園にあって、教師に対する恋愛はご法度。内気な里絵は想いを伝えることなど到底できない。

そんなある日、里絵の片想いを知る親友の智子(松村亜希子)が、恋が成就するおまじないをやろうと提案する。クラスメートの悦子(山本照美)や麻美(川嶋朋子)と共に儀式が行なわれるが、麻美の悪ふざけから儀式は失敗してしまう。「悪霊を呼んでしまうかも...」と危惧する智子。そしてその日以降、里絵の周囲では不吉な出来事が相次いでいく...。

深津は、本作の3年前、1986年に「ミス原宿コンテスト」に応募し、見事に優勝を果たして13歳で芸能界デビューした。デビュー当初はアイドル歌手としても活躍しており、本作の主題歌「マリオネット・ブルー」も深津が歌っている。

■海外でも評価された金田龍監督の巧みな演出が恐怖心を煽る

若き日の深津絵里、寺脇康文の演技を昭和ホラーとともに味わうことができる
若き日の深津絵里、寺脇康文の演技を昭和ホラーとともに味わうことができる

(C)アミューズ

それはともかく、本作における深津の美少女ぶりは本当に光っている。ショートカットがこれほど似合う女性も珍しいが、セーラー服姿も可憐で儚げな気品に満ちている。沢田先生に向ける眼差しの何とも言えない温かさもいい。10代の少女にしか表現できない自然な表情と雰囲気は、狙って出せるものではないはずだ。当時の彼女はまだ演技経験が浅く、初々しさがあるが、それがかえって魅力的だ。

ただ、決して稚拙な演技ではなく、終盤では力強さも感じさせる。女優としての天性の才能というほかない。なお、深津は本作の演技により、ローマ国際ファンタスティック映画祭の女優賞と日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞している。

物語としては、"悪霊"の仕業と思われる惨劇が学園内に頻発し、生贄のように犠牲者が増えていく。そんな恐怖の演出が心憎い。当時はCGが未発達な時代で、カメラワークと色を巧みに生かし、BGMを効果的に配した演出もうまい。監督の金田龍は、後に人気特撮ドラマ「牙狼<GARO>」シリーズを多く手掛けて有名になるが、本作がデビュー作であり、ローマ国際ファンタスティック映画祭で最優秀監督賞を獲得していることからも、手腕が証明された形だ。前半では惨劇こそ起こるが、死体などの残虐な描写は極力見せない。ただし、それがかえって恐怖心を煽る。

■現在とはイメージが異なり、繊細さを放つ寺脇の演技も抜群

共演者では、なんといっても寺脇康文が素晴らしい。当時の寺脇は岸谷五朗、山田幸伸とユニット「SET隊」で売り出し中で、テレビにも進出し始めていた。それでも一般的な知名度はまだまだで、映画出演は本作が初めてだった。

今でこそ「相棒」シリーズの亀山薫の肉体派イメージが強いが、当時の寺脇はスリムで繊細さを感じさせる。美術教師のイメージにもぴったりで、ヒロインに憧れられるのも頷ける。ただし、終盤では波乱の展開となり、寺脇と深津の芝居も大きく変わっていく。ラスト20分はまさに一瞬も目が離せないほど壮絶だ。

いま改めて「満月のくちづけ」を観ると、ただの可憐な美少女ではなく、女優としての萌芽をしっかり感じ取ることができる。衛星劇場で放送される「満月のくちづけ」は、若手時代の深津絵里の魅力が炸裂し、内容としても見ごたえ十分だ。映像技術に頼らない昭和ホラーの実力を、現代の若い映画ファンにもぜひ見てほしいと思う。

文=渡辺敏樹

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放送情報【スカパー!】

満月のくちづけ
放送情報:2025年10月3日(金)8:30~
放送チャンネル:衛星劇場
出演:深津絵里、寺脇康文、松村亜希子、川嶋朋子、山本照美、小倉久寛、三宅裕司
※放送スケジュールは変更になる場合があります。

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