
原作/東野圭吾「赤い指」(講談社刊) (C)TBS
事件は、ごく普通のサラリーマンの家庭・前原家で起こる。妻・八重子(西田尚美)から知らせを受けた夫・昭夫(杉本哲太)が急いで家に帰ると、庭に少女の遺体が横たわっていた。前原家には、いじめを受けて心を閉ざすようになった息子・直巳と、認知症を患う昭夫の母・政恵が一緒に暮らしており、八重子の話では直巳が少女を殺害してしまったようだった。
息子をかばうために昭夫が遺棄した遺体が発見され、警察の捜査が始まる。本作では事件を隠蔽しようとする前原家と、捜査にあたる加賀の2つの視点で物語が進行していく。
捜査において加賀が最初に登場するのは、前原家の庭だ。警察の訪問を受けた昭夫が玄関から出てみるが、姿が見えない。しかしあたりを見回すと、庭で加賀が静かな笑みを浮かべて立っていた。加賀は相手の意表を突くところから姿を現すことがあり、本作でもその特徴は健在だ。
捜査を進める過程でも、政恵が軍手をはめた手を広げた時に突然表情が変わったり、自転車についた泥の話を昭夫にしながら探るような目つきになったりと、細かい演技で捜査のポイントとなる要素を視聴者に伝えてくる。加賀が気になった部分が捜査にどうつながるのか推測しながら観る楽しさも、本作では十分味わえるようになっている。
■すべてが明らかになった時の阿部の熱演が胸を打つ!
本作では、加賀恭一郎という人物の独特の魅力を再現しつつ、彼の刑事としての信条を深堀りしていることにも注目したい。物語にはかつて刑事だった加賀の父・隆正(山崎努※「崎」は正しくは「立さき」)も登場し、回想シーンで加賀の従弟の刑事・松宮脩平(溝端淳平)にこう語る。「どれだけ事件を解決したかは問題じゃない。どれだけの人を、救ったかだ」
真実を明らかにするだけでなく、苦しみや悲しみの中にいる関係者を思いやり、救われるように捜査する。恐らくは父と同じ、そんな想いを加賀が胸に秘めていることが分かるシーンが、物語の随所にある。
例えば、加賀は前原家に狙いを絞りつつも、聞き込みの際には前原家に変な噂が立たないよう配慮する。また、真実に近づいた時には、前原家の人々を思いやり、"真実は取調室で強引に明かされるべきことじゃない"と、少し哀愁の混じった、しかし確かな口調で語るのだ。
そして関係者に対するそういった想いが、ラストですべての"嘘"を解き明かした時の、加賀の想いのこもった言動につながっていく。物語の中で、加賀が事件と向き合う姿勢がしっかり伝わっているからこそ、そのシーンが強く胸を打つし、それもやはり、阿部の熱演があってこそだろう。
本作について、阿部は公式サイトのコメントで「全く新たな気持ちで加賀という人物を作り直しています」と語っている。その言葉の通り、本作はドラマ本編よりも、加賀恭一郎の魅力と人間味がより深く味わえる作品に仕上がっていると言えるだろう。
文=堀慎二郎
放送情報【スカパー!】
赤い指~「新参者」加賀恭一郎再び!
放送日時:2025年10月4日(土)10:10~
チャンネル:映画・チャンネルNECO
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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