高橋一生×平山秀幸監督が語る『連続ドラマW 1972 渚の螢火』三度目のタッグとなるお互いの印象も明かす
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平山秀幸が監督を務めるWOWOW連続ドラマ『連続ドラマW 1972 渚の螢火』が、10月19日より放送・配信される。原作は、『インビジブル』で第23回大藪春彦賞を受賞し、直木賞候補にもなった坂上泉のクライムサスペンス『渚の螢火』。主演は高橋一生。共演に青木崇高、小林薫、沢村一樹、城田優ら実力派俳優が顔をそろえる。
物語の舞台は1972年、本土復帰を目前に揺れる沖縄。現金輸送中の銀行車両が襲撃され、100万ドルが奪われる事件が発生。外交問題を恐れた琉球警察は極秘に特別対策室を編成し、沖縄の未来を懸けた18日間の戦いが始まる――。
史実を背景にしながら、政治と暴力、そして人間の尊厳を描いた本作。高橋と平山監督の三度目のタッグとなる本作について、二人に話を聞いた。

――高橋さんは完成した作品をご覧になったときの印象はいかがでしたか?
高橋「史実や実際に起きた出来事が下敷きにはありますが、しっかりとクライムサスペンスとして成立していました。娯楽としての強度がありつつも、重心は低く、派手な"ドンパチ"ではない。人間ドラマとしての深みがありながらアクション要素もある。エンターテインメントとしてのバランスをしっかり持った作品に仕上がっていたと思います」
――お2人が"本土復帰"という歴史的転換点を迎えた沖縄を描くこの作品に臨むにあたって、どのような覚悟や責任を意識されたのでしょうか?
平山「お話をいただいて原作を読んだときに、やはり沖縄を舞台に描くとなると、どうしても政治的なことやさまざまな思いに目がいくと思うんです。でも沖縄を舞台にする以上、それがホームドラマでもコメディでも、必ず背景には沖縄の問題が浮かび上がってくる。だからこそ、沖縄そのものをテーマにするというより、ギャング、警察、アメリカ軍といった登場人物が織りなす物語に注目しました。娯楽作品として面白そうな素材が多く含まれているので、B級アクション映画を撮るような気持ちで臨みました」
――監督自身、これまで"ドンパチもの"はあまり経験がなかったと
平山「そうなんです。だから今回はアクションをやってみようという感覚で入ったんです。政治的な題材からというより、まず娯楽性を大事にしたいと思いました」
高橋「事実をそのまま再現するならドキュメンタリーの領域になると思っています。原作をもとに娯楽として物語が作られている以上、やはり"娯楽であること"が大前提。台本を読ませていただいたときも、まずは娯楽作品としてしっかり意識しようと思いました」
――高橋さんは真栄田太一というキャラクターをどう捉えられましたか?
高橋「彼は本当にどこにも居場所がない、宙ぶらりんのような人間だと思いました。それは当時だから特別に生まれたものではなく、今もなお、社会や環境によって人が分断されてしまう現実があると思うんです。真栄田はまさにその象徴のような存在で、自分のアイデンティティすら揺らいでしまう男。しかも舞台となる1972年の沖縄自体が大きく揺れていた時代背景と重なって、その不安定さを強く意識しながら演じていました」
――セリフから滲み出る感情のゆらぎも印象的でした
高橋「セリフそのもの以上に、その"間"を大事にしました。沈黙や余白の時間こそが、人物同士の関係性や心の揺れを表すと思ったからです。与那覇といった人物と向き合うときの間合いや会話の呼吸を大切にしましたし、平山監督もそうした沈黙を丁寧にすくい取ってくださった。セリフ以外の部分で立ち上がるものを意識していたと思います」

――お2人の意識のすり合わせは、どのようにされたのでしょうか?
平山「初日のときに多少は話した気もしますが、現状や過去の政治的なことを深く話し合った記憶はないですね。むしろ"真栄田という男をどう描くか"ということを話しているうちに、自然と背景の問題に触れざるを得ないことが多かったように思います」
高橋「そうですね。政治的なことよりも、この物語をどう描くかに集中していた印象です。"エンターテインメントであるべきだ"という話は最初から共有していたと思います」
――娯楽として描く一方で、撮影が進むうちに背景の問題が見えてくる部分もあったのではないでしょうか?
平山「そうなんです。やっているうちに『そういえばこんな問題があったな』と改めて思い出すこともありました。まだ勉強不足だったと感じることもあり、逆に学びながら考えざるを得ない瞬間も多かったです」
高橋「知れば知るほど深く入り込んでしまうところはありました。物語のベースに政治的な背景が含まれているのは確かですし、それを素直に演じることが大切だと思いました。ただ、掘り下げすぎるとメッセージ性が強くなりすぎるので、僕はあくまで人物に焦点を合わせました。真栄田のように世界のどこにも居場所がない人間に寄り添っていく。その姿勢があったからブレは少なかったと思います」
――平山監督に伺います。今回で高橋さんとは3度目のタッグになりますが、改めて感じた高橋さんの魅力はどんなところでしょうか?
平山「最初にご一緒したのは『よい子と遊ぼう』('94)のときに子役で万引き強盗団を描いた作品、その次は前作の強盗団から改心して「連続ドラマW ヒトリシズカ」('12)で、警察官になる役でした。その間に高橋さんは映画でも主演を重ね、自分の世界をしっかり築いてきた。だから大きくなったねという言い方は違うけれど、映像を作る仲間として確かな存在になったと強く感じています」
高橋「監督のすごいところは、物語を作る過程で常に悩んでいることなんです。でもその悩みは迷いではなく、作品やシーンに対して誠実に向き合っている証拠。役者のお芝居をきちんと見た上で判断してくださるので、とても信頼できます。"お芝居をまず見てくれている"という安心感が常にありますね」
放送情報【スカパー!】
『連続ドラマW 1972 渚の螢火』
放送日:10月19日(日)22:00スタート
チャンネル:WOWOW
※放送スケジュールは変更になる場合があります
出演:高橋一生
青木崇高 城田優
清島千楓 嘉島陸 佐久本宝 広田亮平 藤木志ぃさー ベンガル
沢村一樹 小林薫
原作:坂上泉『渚の螢火』(双葉文庫刊)
監督:平山秀幸
制作プロダクション:東北新社
製作著作:WOWOW
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