高橋一生×平山秀幸監督が語る『連続ドラマW 1972 渚の螢火』三度目のタッグとなるお互いの印象も明かす
俳優

――平山監督は『その都度悩んでいる』とおっしゃっていましたが、具体的にはどんなところで悩まれていると感じましたか?
高橋「この作品は歴史的背景を扱っているので、リアリティをどの程度まで追求するべきか。そのバランスをまず考えられていたと思います。そして、それぞれのキャラクターがシーンごとにどう選択し、どう立ち向かうのか。その一つひとつを俳優と照らし合わせながら悩んでおられた印象です」
平山「台本はあくまで青写真でしかないと思っています。俳優の血や肉、生理のようなものが吹き込まれて初めて成立する。だから必ずしも台本通りに進む必要はありません。俳優が示したものの中から面白いと思えば取り入れるし、僕の役目はそれをどう選ぶか。悩むというのはどんな作品でも必ずありますが、特に今回は1972年の沖縄を描くにあたって、歴史の重さをどう娯楽作品として見せるか、その塩梅にはずいぶん頭を使いました」
――実際に撮影現場で台本から離れていった部分もありましたか?
平山「それは特に感じなかったですね。高橋さんだけでなく、俳優それぞれが持ち寄るものが混ざり合って、現場で一度は『これでいいのか?』と揺れることはあります。でもそれは悪いことではなく、編集の段階でどう形になるかも含めて楽しみにしていました。現場ですべてを決め切らずに、混沌の中で生まれるものを大事にしたかったんです」
――1972年当時の沖縄を描くにあたって、舞台再現にはどんな苦労があったのでしょうか?
平山「当時の風景はある程度残っているのですが、現実的には撮影できない場所も多いんです。例えば街並みを撮っても、走っている車はすべて右ハンドル。ただ、やはり沖縄ならではの空気感はどうしても出したい。その空気は東京では絶対に再現できないものなんです。それに今回は撮影時期がとても寒くて......。沖縄が舞台なので出演者は半袖を着ているのですが、実際は冷え込みが厳しく、みなさん本当に大変だったと思います。本当はもっとギラギラした暑さを映したかったのですが、そこはやむを得ませんでしたね。とはいえ、俳優のみなさんがうちわを持ち、暑そうに見せてくれたので助かりました(笑)」
高橋「現場では沖縄だから大丈夫と思って準備していたら、実際は雪が降るんじゃないかというほどの寒さで......。覚悟が足りていなかったと痛感しました。北海道のように寒い前提で準備していれば気持ちも違うのですが、今回は完全に不意を突かれた感じです。毎朝、憂鬱になるくらい冷え込みが厳しかったですね(笑)」
――今回、実際に沖縄で撮影が行われましたが、街の印象はいかがでしたか?
平山「僕は30年ほど前、助監督時代に寺山修司さんの『百年の孤独』の撮影で沖縄に行ったことがあるんです。その時はひたすらサトウキビ畑やジャングルの中を走り回っていました。今回改めて訪れて感じたのは、やはり海の美しさ、そして雲の豊かさですね。雲を撮るためだけに沖縄に来てもいいと思えるくらい、素晴らしかったです」
――沖縄の街を撮影以外で楽しむ機会はありましたか?
高橋「脚本の雰囲気や背景に引っ張られて、今回の滞在では普段見ていた沖縄とは違う"暗部"の側面を強く意識してしまいました。地元の方々に話を聞くと、アメリカにネガティブな印象を持つ人もいれば、ポジティブに捉える人もいる。その2つの間で揺れる感覚を実感しました。やはり現地に入ってこそ肌で理解できる部分がありましたね。だから街を車で通っても、どこかほの暗い印象で見ていた気がします」
平山「僕は残念ながらほとんどホテルにこもりきりで......(笑)。拠点がコザだったので、本当ならもっとエネルギッシュな街を楽しめたはずなのですが、遠出もできず、結局沖縄を満喫する余裕はありませんでした」

――共演の青木崇高さんについて、劇中では最初はライバル視し合う関係でありながら、やがてある種の共闘関係へと変化していきました
高橋「青木さんはご自身からこうやろうと芝居を組み立てるタイプではなく、その場で相手の芝居を受けながら構築していく方です。僕も自分の考えを提示しつつ、相手の出方を受けてこの関係性はどう変化するだろうと探りながら進めていました。真栄田は現地の人間から疑いを持たれる存在ですし、青木さん演じる与那覇も最初はそういう距離感を持っていた。けれど次第にそうではないかもしれないと感じ始める。そこからお互いの距離が微妙に縮まり、完全に団結するわけではないけれど、シーンごとに変化していく。その過程を芝居の中で一緒に作っていった気がします」
――改めて、共演しての印象はいかがでしたか?
高橋「実は青木さんと同じ作品でご一緒したことはありましたが、しっかりセリフを交わすのは今回が初めてでした。非常に探究心があって、現場でも『一生くんはどういう気持ちで演じてるの?』と聞いてくださる。そのやりとりを通じて、お芝居のあり方を常に研究されている方なんだなと感じました。テクニックで押すのではなく、心情の乗せ方をとても大事にされる方で、一緒に芝居をしていて面白かったですし、僕自身も学ぶことが多かったです。気づけば2〜3か月に一度はうちに食事に来ているんですよ。俳優仲間でそこまで親しくなることはあまりないのですが、青木さんとは思った以上に仲良くなりました (笑)」
取材・文=川崎龍也
放送情報【スカパー!】
『連続ドラマW 1972 渚の螢火』
放送日:10月19日(日)22:00スタート
チャンネル:WOWOW
※放送スケジュールは変更になる場合があります
出演:高橋一生
青木崇高 城田優
清島千楓 嘉島陸 佐久本宝 広田亮平 藤木志ぃさー ベンガル
沢村一樹 小林薫
原作:坂上泉『渚の螢火』(双葉文庫刊)
監督:平山秀幸
制作プロダクション:東北新社
製作著作:WOWOW
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