冒頭から風呂で茹で上がった蟹に驚いて裸でムコのもとへ駆け出し、ヤギや花々と会話しながら水を撒き、おかえりと言いながら雨を浴びる。短い前髪も愛らしく、柔らかな関西弁も違和感なく使いこなす。ムコとの食卓も自然な会話も、お互いの愛情や優しさが滲む。

ツマは一通の手紙を機に怒りや悲しみが吹き出し、不安定な心を抱えて、時折激しく感情を爆発させる。台所でムコに怒りをぶつける表情、一人留守番をする家で落ち着きなく過ごす姿に、痛いほど気持ちが伝わってくる。少し不思議で天真爛漫、どこまでも真っ直ぐなツマ。念願叶っての出演となった宮崎が、持ち前の高い演技力でツマを映画の世界観の中で実在させている。

また、ムコ役を務めた向井も過去に雑誌で原作を推薦していた。自然な距離感の夫婦が出来上がっているのも、2人揃って原作への真摯な思いがあるからだろう。互いに秘密を抱えた夫婦のリアルな心情を、宮崎と向井が自然体で演じた。痛みを伴いながらも大切な人と向き合い、心の壁を乗り越えて愛を深めていく様が、静謐な映像で綴られていく。

本作を含め、11月22日の"いい夫婦の日"に合わせて、夫婦愛を描いた映画がＷＯＷＯＷで特集される。「きいろいゾウ」のほか、宮崎が堺雅人と主演した「ツレがうつになりまして。」(2011年)もラインナップされており、「篤姫」で夫婦役を務めた2人の息の合った演技も見逃せない。様々な夫婦の形を、映画を通じて楽しんでほしい。

文＝中川菜都美