警視庁特命係の杉下右京(水谷豊)と冠城亘(反町隆史)の活躍を描く「相棒－劇場版IV－　首都クライシス　人質は５０万人！　特命係　最後の決断」 (2017年)は、シリーズの持つ知的興奮と劇場版ならではの圧倒的なスケールを見事に融合させた傑作である。本作が日本映画専門チャンネルで放送されることは、ファンにとって見逃せない機会となるであろう。

本作では、タイトルの通り「人質は50万人！」という前代未聞の危機が首都を襲い、その未曾有のテロ事件に右京と亘が立ち向かうのだ。巨大な権力や国際的な陰謀が複雑に絡み合う、息つく暇もない展開で映画ならではのスケールの大きさを感じさせる。

右京と亘の抜群のコンビネーションは劇場版でももちろん健在で、お互いの個性を理解し合い、絶妙な呼吸で事件の深層へと切り込んでいく特命係の活躍は、ファンにとって最大の魅力であると言える。本作は、予想外の展開が随所に仕掛けられ、常に視聴者の推理を裏切り続ける、サスペンスフルな仕上がりとなっている。

■劇場版ならではの豪華なゲスト陣。かつての相棒役、及川光博も出演

物語を彩るゲスト陣もまた、この劇場版の大きな見どころ。物語の鍵を握るキーパーソンとして、国連犯罪情報事務局の元理事・リュウを鹿賀丈史が、そして全身黒づくめで首に羽のタトゥーがある謎の男を北村一輝が演じている。二人の実力派俳優の存在感が、物語の緊張感を一層高めていることに間違いはない。

さらに、「相棒」シリーズの人気を長きにわたって支えてきたキャラクターたちの登場も、ファンを熱狂させる要素である。かつて右京の相棒として共に難事件を解決に導いた神戸尊(及川光博)が重要な局面で特命係に協力し、右京から数々の無理難題を押し付けられてきた元鑑識課員の米沢守(六角精児)も捜査協力を惜しまない。歴代の相棒や協力者たちが一堂に会し、未曾有の危機に立ち向かう展開は、まさに劇場版ならではの豪華な演出である。

■次々と事件が勃発していく中、水谷演じる右京が鋭い観察眼で推理

物語の始まりは、7年前に英国の日本領事館関係者が集団毒殺された事件に遡る。この事件の唯一の生き残りでありながら、事件直後に誘拐され行方不明となった少女の存在が、現代の危機へと直結していく。

そして7年後のある夜、右京と亘はリュウと共に国際犯罪組織の動向を探っていた。しかし、右京たちに助けを求めていたリュウの部下は、特命係が来る直前に謎の男に殺害されてしまう。

数日後、右京と食事をしていたリュウがレストラン街で突然倒れこむと、周囲の人々も次々と苦しそうに倒れていく。食中毒か？それとも無差別テロか？この惨劇の直後、外務省のホームページが何者かにハッキングされ、日本政府への動画が送られてくる。画面に映し出されたのは、7年前に誘拐された少女の現在の姿だった。犯行グループは、日本政府に身代金を要求する。

次々と事件が勃発する中で、一見バラバラに見えた「点と点」が右京の鋭い観察眼と推理によって繋がり始め、やがてそれは、日本という国家全体を揺るがすほどの大きな事件へと発展していくのだった。

■右京と亘、正反対の二人を魅力たっぷりに演じる水谷と反町

右京を演じる水谷の最大の魅力は、シリーズの屋台骨としての絶対的な安定感と、役柄との完全な一体化にある。水谷は、右京の持つ"孤高の天才"というキャラクターを、長年の経験と研ぎ澄まされた演技力によって、完璧に体現し続けている。

一方、右京の持つ静的な魅力に対し亘は、動的なエネルギーと若々しい軽快さを持ち、右京とのコントラストをもたらしている。反町はその恵まれた体躯と身体能力をいかし、フットワークの軽さやアクションシーンを、説得力をもって演じ切る。さらに、緊迫したシリアスな場面においても、時にユーモアや人間味を滲ませることで、ドラマに緩急と活力を与える緩衝材の役割も果たしている。

そして、かつての相棒時代から一貫して右京の理解者だった神戸は、そのスマートで洗練された佇まいを保ちつつ、右京の窮地に駆けつける「助っ人」として、物語の緊張感をさらに高めている。神戸を演じた及川の表情や台詞の端々からも、右京に対する敬意と、相棒として苦楽を共にした深い絆が感じられる。

杉下右京という絶対的な存在を中心とした、役者陣が見せる熱演は見事なまでに調和している。それが「相棒 ―劇場版IV―」を単なる刑事ドラマではなく、人間の信念と正義が交錯する重厚な社会派映画へと昇華させているのだ。本作は劇場版にふさわしい壮大なスケールと、シリーズの根幹をなす正義のテーマが深く掘り下げられた、必見のサスペンス大作である。

文＝石塚ともか