「月曜の夜9時になると街からOLが消える」と言われるほどの社会現象を巻き起こした「東京ラブストーリー」から始まり、現在も数々のヒット作を世に送り出している脚本家・坂元裕二。2025年も「ファーストキス 1ST KISS」に「片思い世界」と、話題作を生み出した。日常の積み重ねを丁寧に描き出し、何気ないようでいて心に残る会話劇を繰り広げる。そんな彼の脚本を心待ちにするファンも多い。
そんな坂元が2006年に脚本を手掛けた映画が、「ギミー・ヘブン」だ。"数字の1を見ると、同時に数字が纏う色を感じる"というように、ある感覚から別の感覚が呼び覚まされるという特殊な知覚現象"共感覚"をキーワードにしたサスペンスで江口洋介のほか、宮崎あおい(※「崎」は正しくは「立さき」)、松田龍平、安藤政信、石田ゆり子と、そうそうたる俳優陣が顔を揃えた。
(C)2004 アートポート・松竹・ユーロスペース・関西テレビ
ある富豪が殺害される事件が起こり、現場検証にやって来た刑事・柴田亜季(石田)は、死体も血痕が謎のマークになっていることに気付く。富豪には麻里(宮崎)という名前の養女がいるが、養父の死後間もないにもかかわらず、彼女は自室でピアノを弾いていた。なんでも彼女は、実の両親の死後、3組の養父母に引き取られていたが、今回の事件を含め、いずれの家族も不可解な死を遂げているという。柴田はピアノを弾いている麻里に話しかけるが、彼女は答えようとはせず。その後、麻里は豪邸から姿を消してしまうのだった...。
同じ頃、デザイン事務所を営む葉山新介(江口)は、弟分の野原貴史(安藤政信)とともに、本業とは別にヤクザの下請けで盗撮サイトを運営していた。ある時、女性の家や街中などに多数仕掛けたカメラに映し出された様子を、事務所に並ぶモニターでチェックしていたところ、貴史がその中の1つに女性が倒れているのを見つける。カメラの設置場所である河川敷に駆け付けた新介と貴史は、眠っている麻里を見つけ、彼女の疲れきった様子を見て、事務所に連れて帰ることに。男同士で過ごしていた事務所に少女が来たことに貴史が舞い上がる傍らで、麻里の纏う孤独感が気がかりな新介。やがて、新介はテレビのニュースで麻里が警察に追われていることを知る...。
(C)2004 アートポート・松竹・ユーロスペース・関西テレビ
江口が演じている新介は、弟分の貴史や恋人・不由子(小島聖)に囲まれて何気ない日々を過ごしているが、内心では孤独を抱えていた。それは、生まれつき "共感覚"という特異な性質を持っており、それを誰にも理解されないことから来るものだった。他人と共有できない性質に、"他人は僕が見えているように、この世界が見えているのだろうか"と、悩む新介。そんな彼だからこそ、初めて会った麻里が抱く空虚に気付けたのだろう。
そして一方の麻里も、新介と同じ"共感覚"の持ち主。「どんなことも、私に見えるように見える人がいなかった。私に聞こえるように聞こえる人はいなかった」。同じように孤独を抱えて生きてきた麻里の日常は、新介との出会いで変わり出す。そんな麻里を宮崎が透明感に溢れた声と、寂しさを宿したような瞳で演じている。
その後、麻里は新介の事務所で暮らすこととなる。しかし、サイトで異変が起きたことを皮切りに、投身自殺など、新介の周りで次々と不可解な事件が起き始める。それは麻里を追う警察以外の何者かの仕業なのだが、"麻里を返せ"と脅す手口は次第にエスカレートしていき...。
"共感覚"というキーワードをもとに、紐解かれていくサスペンス。坂元の脚本の妙と、江口、宮崎ら俳優陣の演技を楽しみながら、その結末を見届けていただきたい。
文=HOMINIS編集部









