
"経営者ではなく、所詮は研究者だ"と言われ、何度も窮地に陥る佃製作所。不完全だからこそ可能性を感じさせる社長を、阿部は持ち前の個性を活かし、実に魅力的に演じている。
従業員を不安にさせる問題が起きた時には食堂にみんなを集め、正直に頭を下げて謝る。一方で事業が好転した時には状況を報告し、喜びを分かち合う。携帯の着信音は映画「ロッキー」のテーマで、行き詰まった時に会社で食べるのは決まって大福。研究開発を止めなければならないほど会社が追い詰められた時、長い付き合いの技術開発部長・山崎光彦(安田顕)に、大福の白い粉が口についたまま涙を流しながら謝罪する場面では哀愁とおかしみを感じさせる。社長として苦渋の判断を下さないといけない局面では、元銀行員の経理部長・殿村直弘(立川談春)の「あなたは夢に愛されている」という言葉に目頭を熱くするなど、人間味たっぷりの人物だ。
裏表がなく不器用だが、発明や技術の話になるとすごい勢いで語り、社員の士気を上げる時には表情に青年時代の面影を宿す。50代になり年齢もキャリアも重ねたタイミングで出会った佃という泥臭くて愛らしい役は、阿部自身の人間力ともシンクロする役柄なのかもしれない。
■阿部と吉川の華と存在感ある演技の応酬も見どころ

"宇宙から大地へ"というテーマを掲げ、2018年に放送された続編にも出演している財前役の吉川と阿部の共演は、第一線で活躍した者同士だからこその刺激がある。
本作では中小企業を見下していた財前と、資金繰りに苦労しながらも佃製作所の宝である技術を守ろうとする佃との出会いから関係性の変化が描かれていく。真っすぐに自社の取り組みや誇れる社員たちの働く姿を伝える佃を演じる阿部の熱を帯びた演技と、財前が帝国重工の藤間社長(杉)の命を背負って立っていることが伝わる吉川の圧のある存在感と重厚なセリフ回しは、対照的だからこそ面白い。
勧善懲悪のスカッとする要素や、温故知新[岡村 萌子1.1]の精神も散りばめられたスケール感たっぷりの本作。主人公を熱演した阿部の芝居とともに、令和の今だからこそじっくり堪能したい。
文=山本弘子




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