古今東西のあらゆる題材を舞台化してきたタカラヅカだが、インド映画の舞台化にもチャレンジしている。それが「オーム・シャンティ・オーム -恋する輪廻-」だ。インドには「ハリウッド映画」に対して「ボリウッド映画」という言葉があるくらい映画産業の盛んな国だが、この作品の原作もボリウッド映画の大ヒット作である。
ストーリーは、インドらしい輪廻転生の物語だ。オーム・プラカーシュ・マキージャーはうだつの上がらない脇役俳優だが、自分もいつか大スターなれると信じ、憧れの女優シャンティプリヤの大看板の前でいつも話しかけている。やがて、ふとしたチャンスから本物のシャンティプリヤと心を通わせるが、彼女の夫、映画プロデューサーのムケーシュの策謀により、2人は命を落としてしまう。30年後、オームは大スター、オーム・カプールとして転生し、前世の記憶を思い出した彼はムケーシュへの復讐を誓う。
映画では、「キング・オブ・ボリウッド」の異名を取る大スター、シャー・ルク・カーンがオーム役を演じ、シャンティプリヤを演じたディーピカー・パードゥコーンはこの作品によって「ボリウッドのディーヴァ」の名を馳せた。日本でも2013年に公開され、話題になった作品だ。映画は約2時間50分の大作だが、これは登場人物たちが歌い踊る場面が合間に多く入っているからである。インドにおいて映画は、休日に家族総出で見る娯楽だ。したがって時間もたっぷり、内容も盛りだくさんでお得感があるものが求められる。
こうしたインド映画らしさが、タカラヅカでも見事に踏襲されている。唐突な歌や踊りのシーンも、タカラヅカの舞台であれば違和感がない。また、恐怖や憎悪といったネガティブなものも含めた、多様な感情が描かれる作品が好まれるのもインド映画の特徴だ。この作品もコミカルな場面から、人間の残酷な本性を描いた場面まで、振れ幅が大きい。そして「マサラ・ミュージカル」という斬新な副題には、演出・小柳奈穂子の「日本人向けのマイルドカレーではなく、スパイスだらけのインドカレーをできるだけ忠実に再現しよう」との思いが込められている。
この作品は、星組トップコンビの紅ゆずる・綺咲愛里のプレお披露目公演であった。このようなユニークな作品がプレお披露目に選ばれるところが、個性派スターの紅らしいところだ。見どころは紅の2役演じ分けだろう。1幕では「ドラえもん」ののび太をイメージしたという、ちょっと頼りないが天真爛漫なオーム・プラカーシュ・マキージャー。一転して2幕では大スターのオーム・カプール、紅の持ち味が対照的な2役でいかんなく発揮される。トップ娘役の綺咲も1幕では誇り高い大女優シャンティプリヤ、一転して2幕ではオーム・カプールの大ファンのサンディ役を演じ、キュートで現代的な女の子の顔も見せる。いかにもインド美人風な綺咲にはぴったりの役柄だ。
クライマックスには、オーム・カプールとサンディの新たな恋の始まりを予感させる場面もあり、新トップコンビのスタートと重なって見える。2人を陥れるムケーシュはタカラヅカでは珍しく良心のカケラもない役だが、端正な容貌と"お兄様キャラ"で人気の七海ひろきが、この"色悪"をどう見せるかも注目だ。オームの母親べラ・マキージャーには、普段はベテラン男役の美稀千種。サンディへの「演技指導の場面」で、どんなアドリブが飛び出すかも楽しみにしてほしい。ラストは出演者全員が客席に降り、観客と共に主題歌に合わせて踊るという、客席参加型の趣向もあり、最後まで楽しめるエンターテインメント作品に仕上がっている。
文=中本千晶
放送情報
『オーム・シャンティ・オーム -恋する輪廻-』('17年星組・梅田芸術劇場)
放送日時:2018年8月5日(日)21:00~
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。
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