2018年の台湾公演で上演された『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』がいよいよタカラヅカ・スカイ・ステージに登場する。台湾と日本の"奇跡のコラボ"ともいうべき人形劇を舞台化した作品である。
シナリオライターの虚淵玄(ニトロプラス)が台湾の伝統的な人形劇で今も人気の「霹靂布袋劇(へきれきほていげき)」に惚れ込んだことが作品誕生のきっかけだった。総監修・原案・脚本は虚淵、キャラクターデザインもニトロプラスのデザイナー陣が行なったが、人形制作と撮影を担当したのは「霹靂布袋劇」の制作会社である台湾の霹靂社。キャラクターの声は日本の人気声優が担当している。これが2016年7月よりテレビ放映され、まったく新しいタイプの映像作品として密かに話題になっていた。
この"奇跡のコラボ"に着目したのが、宝塚歌劇の演出家の中でもとりわけ「2.5次元」の世界への造詣が深いことで知られる小柳奈穂子である。第3回台湾公演が決まり、何か作品はないかと聞かれたときに真っ先に思い浮かんだのがこの作品だったという。
先祖代々守ってきた聖剣を奪われた少女・丹翡(たんひ・綺咲愛里)が偶然出会った謎の美丈夫・凜雪鴉(りんせつあ・紅ゆずる)らと共に聖剣を取り戻す旅に出るというストーリーだ。彼はそのために必要な力を持った者を次々と仲間に引き入れていく。腹に一物ありそうな登場人物たちの思惑がぶつかり合い、物語は二転三転していく。
台湾公演にも相応しい作品だが、演じる星組メンバーにもぴったりはまっている。演出の小柳も「画面の中の凜雪鴉が紅ゆずるにしか見えず、丹翡が綺咲愛里、捲殘雲(けんさんうん)が礼真琴にしか見えなかった」(公演プログラムより)と語っている。
とりわけ星組トップスター・紅ゆずるが演じる凜雪鴉は、これは紅さんそのものではないかと思うほどのハマリ役だ。前半は飄々と軽やかに、しかし後半は気骨あるところを見せ、この人物の底知れなさを感じさせる。
ヒロイン・丹翡を演じた綺咲愛里は、まるで人形がそのまま大きくなって動いているかのような可憐さ。娘役には珍しく殺陣の見せ場も多く、お嬢さまパワーで周囲の男たちを振り回していく様が気持ちいい。
登場人物の中でただ1人表裏のない爽やかな役どころである捲殘雲を演じる礼真琴が、ムードメーカーのような役割を果たしている。また、原作では凜雪鴉とともに主人公である殤不患(しょうふかん)を演じる七海ひろきにも注目。酸いも甘いも噛み分けた大人の男の色気があり、原作放映時にすでにこの作品を見ていたという七海ならではの気合いの役作りである。
原作ファンに大人気のキャラクター・殺無生(せつむしょう)には麻央侑希。刑亥(けいがい)には歌唱力に定評ある夢妃杏瑠。「狩雲霄(しゅうんしょう)の兄貴」を演じる輝咲玲央も良い味を出している。そして、一行の前に立ちはだかる蔑天骸(べってんがい・天寿光希)は妖しさをじわじわと感じさせる。原作を忠実に再現しつつも、演じ手の個性がにじみ出るのが舞台ならではの面白さだ。
主要キャラクターが勢揃いする場面では原作の主題歌「RAIMEI」が流れ、盛り上がりも最高潮に達する。ここでは霹靂布袋劇の特徴である「念白」(キャラクター一人ひとりの特徴を表した漢詩)が背景に映し出されている。客席で見逃してしまった人はチェックしたいところだ。
細かく作り込まれた衣装や激しい立ち回り、巧みな映像使いなど、見どころが満載。原作や台湾文化へのリスペクト、そしてタカラヅカの底力を感じさせる「サンファン」ワールドを堪能してほしい。
文=中本千晶
放送情報
『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 ('18年星組・台北・千秋楽)
放送日時:2019年7月14日(日)21:00~
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。
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