【タカラヅカ】月組・美弥るりかが宝塚歌劇での最後の主演作『Anna Karenina』で見せた芝居心

『Anna Karenina』より
『Anna Karenina』より

今年6月に退団した美弥るりか宝塚歌劇での最後の主演作『Anna Karenina』がタカラヅカ・スカイ・ステージに登場する。宝塚バウホールのみでの短期間の公演であったため、観ることが叶わなかった人にとっては待望の放送であろう。 

ロシアの文豪トルストイの名作をミュージカル化した作品で、2001年の初演以来3度目の再演だ。原作は貞淑な人妻アンナが青年貴族将校ヴィロンスキーと恋に落ち破滅していく小説だが、タカラヅカ版はヴィロンスキーを主人公とし、彼とアンナとの美しく儚い恋の物語として描かれる。

『Anna Karenina』より

原作/レフ・トルストイ (C)宝塚歌劇団  (C)宝塚クリエイティブアーツ

主演の美弥るりかは2003年に入団。多くの男役スターを生み出した期として知られる89期生で、同期にはこの秋に卒業を控えた花組トップスターの明日海りお、雪組トップスターの望海風斗などがいる。星組に配属の後、入団9年目の2012年に月組に組替えとなった。

元々は退団公演となった『夢現無双 -吉川英治原作「宮本武蔵」より-』の佐々木小次郎のような役が似合うイメージがあったが、在団中の後半、月組に異動してからは従来のタカラヅカの男役の枠に収まり切らない幅広い役柄を演じ、観客を魅了した。

とりわけ、持ち前の芝居心を発揮した『グランドホテル』(2017年)の一見冴えない会計士オットー役は印象深い。また、『BADDY -悪党は月からやって来る-』(2018年)のスイートハート役では、性別さえも自由自在に行き来できるキャラクターとして若い世代のファンの心をわしづかみにした。

『Anna Karenina』のヴィロンスキー役は、そんな美弥の集大成ともいえる役どころだ。登場シーンでの端正な軍服姿にまず目を見張り、その憂いに満ちた表情によって一気に物語の世界に引き込まれる。そして、アンナとの恋で彼が命を取り戻していくさまを的確に見せていく。原作の設定から男性としての魅力を膨らませ、主役として成立させられるのはまさに男役としてのキャリアのなせる技だ。

海乃美月演じるアンナは理性的で落ち着いた雰囲気を持つ海乃にぴったり。貞淑な人妻が堕ちていく役どころはタカラヅカのヒロインとして観客の共感を得るのが難しいところがあるが、ひとりの女性の生き様として説得力を感じさせた。

『Anna Karenina』より

原作/レフ・トルストイ (C)宝塚歌劇団  (C)宝塚クリエイティブアーツ

アンナの夫である高級官僚カレーニンは厳格ながら最後まで妻の理解者であろうとする理想的な夫として描かれるため、タカラヅカ版では人気がある。月城かなとが、この美味しい役どころを期待に十分応える形で見せる。競馬場でヴィロンスキーを熱っぽく見つめるアンナの表情に気付いたカレーニンが複雑な心情を歌い上げるシーンは必見の名場面だ。ちなみにこのカレーニン役、2008年の再演時には美弥も演じている。

夢奈瑠音のレーヴィンは原作ではもうひとりの主人公ともいえる重要な役どころだ。そしてキティには大抜擢のきよら羽龍。このカップルが醸し出す無邪気で微笑ましい、そしてちょっぴりユーモラスな雰囲気は、重い物語の中でのひとときの癒しとなっている。

酸いも甘いもかみ分けながら人生を楽しむアンナの兄・オブロンスキー(光月るう)と、夫の浮気に怒りながらも結局はうまくやっていく妻ドリィ(楓ゆき)の俗な夫婦の姿も、主役カップルと好対照。「芝居の月組」プラス専科の面々が見せる達者な演技も見逃せない。

脚本・演出を担当した植田景子氏の作品は、その舞台セットの美しさにも定評がある。客席数500という小劇場だからこそ醸し出せる濃密な空間も、この作品の魅力のひとつ。帝政ロシア末期の重厚で美しい世界観を堪能したい。

文=中本千晶

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放送情報

『Anna Karenina』('19年月組・バウ・千秋楽)
放送日時:2019年10月5日(土)23:00~
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。

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