空前のブームを巻き起こし、劇場版や続編が制作される話題のドラマ「おっさんずラブ」(2018年、テレビ朝日系)で、第22回日刊スポーツ・ドラマグランプリ助演女優賞を受賞した内田理央。
モデルとしても活躍する内田は、竹内涼真主演の「仮面ライダードライブ」(2014年、テレビ朝日系)で本格的に女優デビューし、以降「掟上今日子の備忘録」(2015年、日本テレビ系)、「海月姫」(2018年、フジテレビ系)など数々の連続ドラマに出演するほか、映画『血まみれスケバンチェーンソー』(2016年)で映画初主演を務めるなど、女優として着実にステップアップしている。
そんな彼女が主演を務めたのが「向かいのバズる家族」(2019年、日本テレビ系)だ。同作が日テレプラスで、11月19日(火)よりCS初放送される。
"普通"で"平凡"な家族がひょんなことからSNSで話題となり(バズり)、激変する環境に翻弄されながらも本当の家族の在り方を見つけるまでを描いた、"現代"ならではのホームコメディ。内田は、客が投稿した動画が原因でバズったカフェ店長・篝(かがり)あかりを演じている。
内田といえばこれまで、「仮面ライダードライブ」では格闘戦も射撃の腕も一流の警察官、「掟上今日子の備忘録」では武術が得意な店員、『血まみれスケバンチェーンソー』ではチェーンソーを振り回すふんどしを着けたスケバン、「海月姫」では赤いジャージ姿の三国志オタクなど、個性的な役を多く演じており、それぞれの役柄で話題をさらってきた。そんな中で、同作のあかりはどこにでもいるいわゆる"普通"の女の子という役どころ。
どんな時も笑顔を絶やさず平和的な人柄である一方、ストレス発散としてSNSの中で「ナマハゲチョップ」というハンドルネームで仮面を被って世の中の人々に苦言を呈しているという"裏の顔"も持っているのだが、「見つけた人が観ればいい」という思いで細々と続けており、SNSの中だけの"裏の顔"を持っているという部分では、現代社会においてはそれほど特異なことではない。
そんな"どこにでもいる普通の女の子"を、内田は実に繊細に丁寧に演じている。「普通の人がSNSでバズったら」というコンセプトのストーリーのため、演者がどこまで"普通の人"を演じ切れるのかが作品の出来を左右する肝であり、その部分がしっかり表現できていないとリアリティが損なわれてしまう。特に同作は視聴者に「あり得るかも」と思わせることが必要条件となっているドラマであるため、作品の屋台骨といっても過言ではない。もちろんフィクションであるからいわゆる"ドラマ的な展開"がふんだんにちりばめられているが、それらに説得力を与えているのも内田の表現力に他ならないのだ。
例えば、"裏の顔"が周囲にバレそうになった時の一瞬よぎる焦った表情、笑顔で会話しながらスマホを使ってSNSで母親と言い合う場面での母親のコメントを見て瞬間的にいら立つ表情になるもすぐに笑顔に戻る場面、感情を制御できずうまく笑えないなど、誰もが経験し日常生活でよく見る表情が詰め込まれており、せりふの内容とは違う"心のせりふ"を子細に表す演技力は圧巻だ。
演技力に関する評価基準はさまざまだが、「"普通"であることをどれだけ普通に見せられるか」というのは重要な要素の1つであるし、芝居する上での取っ掛かりがないぶん難易度は高い。だが、同作での内田は"アクションでの素早い動き"や"居るだけで存在感の出るオタクっぽさ"などを纏わず、"裸の演技"であかりを演じ切り、女優として新境地を見せてくれている。
マギーが脚本を手掛けるストーリーも、クスッと笑えるコメディ要素が満載で、怒涛の展開にわくわく感が止まらない。そんな「これでもか!」と畳み掛けるような展開に振り回される篝家の面々に感情移入せずにはいられないし、「それはないわ」などと無下に切り捨てられない共感性がある。どの登場人物にも必ず共感できる側面があるのも同作の魅力の1つであろう。そんな中で、内田演じるあかりの"普通"たるゆえんに注目しながら、内田の"普通ではない"演技力を目撃してほしい。
文=原田健
放送情報
向かいのバズる家族
放送日時:2019年11月19日(火) 14:00~
毎週(月)~(金) 14:00~
チャンネル:日テレプラス ドラマ・アニメ・音楽ライブ
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。
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