ドラマや映画、CM、MVなどさまざまな作品で存在感を見せている岡本夏美、松田るか、坂ノ上茜。この次世代を担う3人の若手実力派女優が圧倒的な演技を披露している作品が映画『BACK STREET GIRLS‐ゴクドルズ‐』(2019年)だ。
同作品は、ジャスミン・ギュによる人気コミックを実写化したもので、「ヤクザがアイドルになる」という斬新な設定が話題を集めたコメディ。岡本は白洲迅、松田は花沢将人、坂ノ上は柾木玲弥と、それぞれ2人1役という難役を熱演している。本作は映画・チャンネルNECOで11月27日(水)に放送される。
犬金組の若きヤクザである健太郎(白洲)、リョウ(花沢)、和彦(柾木)は、組のために"男らしく"仁義を尽くして働くことを心に誓っていたのだが、とある事件で不始末を起こしてしまい、組長(岩城滉一)から「人間やめるか、アイドルになるか」と迫られる。生きるためにアイドルを選んだ3人は性転換に全身整形をして、健太郎はアイリ(岡本)、リョウはマリ(松田)、和彦はチカ(坂ノ上)としてアイドル「ゴクドルズ」として生きることに。
このぶっ飛んだコメディ要素満載の設定からして面白さは期待できるが、実写化となるとどこまで作品世界に没入できるのかと不安になる方も少なくないだろう。だが、そんな不安を払拭するどころか予想を大幅に超える3人の演技力が、作品に説得力と深みを与えている。
"見た目はキュートな女の子、中身はゴリゴリのヤクザ"というキャラクターは、アイドルとしての顔とヤクザの顔の切り替えや、真逆の人物像の間で葛藤する姿が見どころであり、両者のギャップが醍醐味だ。それを実現させるためには「アイドル」と「ヤクザ」のどちらも完璧に成立させる必要があり、中途半端になってしまうと作品の面白みを根幹から揺るがすことになってしまう。逆に言えば、3人の芝居が作品の出来を左右するといっても過言ではない。そんな中で、彼女たちの芝居はこれ以上ないほどに完成されているといえるだろう。
「ヤクザ」としての"男らしい"所作から言葉使い、ドスの利いた声と言い回し、眼光に至るまで、「ヤクザ」時代を演じる俳優陣に引けを取らない。撮影を振り返った3人が「撮影期間中は本番以外でも普通に脚を広げて座ってしまっていた」とコメントするほどに、頭から足先に至るまで自身の女性らしさを捨て"中身は男"という役を浸透させていたからこそ、全く"女性が男性を演じている"感を感じさせないのだ。
一方、「アイドル」としての場面では、見た目はもちろんだが、持ち歌を披露するライブのシーンがすばらしい。同作品のためにオリジナル楽曲が制作されており、歌唱からダンスに至るまで本物のアイドルと遜色のないクオリティーで展開されるパフォーマンスは圧巻。実際にアルバムとしてリリースされている楽曲に乗せて歌って踊る姿はまさにアイドルで、制作陣の強いこだわりと、それに見事に応えた3人の女優魂が垣間見える。
この両立した「ヤクザ」と「アイドル」は、アイドル活動中に思わず素が出てしまう場面や"男らしく生きる"という信念と現状の合間で葛藤する場面を、一層面白く味わい深いもの昇華させている。
加えて、驚くべきは同じ役を演じるペアのシンクロ率の高さだ。例えば、アクションシーンの演出で俳優と女優の芝居が瞬間的に入れ替わる場面がある。一連の同じ動きを同じカットで撮影し瞬間的に入れ替えることで、「ヤクザ」としての力強さや"本当の姿"での怒りを表現しているのだが、人が変わったとは思えないほど同調している。
このシンクロ性は、ペアごとに互いを知ることから始めて入念な打ち合わせをして2人で1人の役を作り上げたという。さらに、女優陣は(自分とペアの)俳優の芝居を現場で漏らすことなく観察して動きをマスターしたほか、撮影の合間も(ペアの)クセからたばこの吸い方、座り方、立ち姿に至るまで研究したそう。
「ヤクザ」の男らしさや粗暴さ、「アイドル」のはつらつとした表情と完璧なパフォーマンス、2人1役という難役を成立させる「シンクロ」。彼女たちの芝居が作品にもたらしたものをじっくりと味わいながら、他のコメディ作品とは一線を画した"極上"コメディを堪能してもらいたい。
文=原田健
放送情報
映画「BACK STREET GIRLS‐ゴクドルズ‐」
放送日時:2019年11月27日(水)23:10~
チャンネル:映画・チャンネルNECO
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。
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