これまで4度の再演を重ね、今やタカラヅカの海外ミュージカルの代表作のひとつとなった『ファントム』が、2020年1月より6カ月連続で放送される。そのスタートを飾るのは、2018年末に宝塚大劇場で、2019年初頭に東京宝塚劇場で上演された雪組版だ。
日本では劇団四季が『オペラ座の怪人』のタイトルで上演しているロイド・ウェバー版が知られているが、タカラヅカが上演するのはこれとは違う、脚本アーサー・コピット&音楽モーリー・イェストン版である。ともにガストン・ルルーの怪奇小説を原作とするが、ストーリーは多少異なり、楽曲は全く異なる。
パリ、オペラ座の地下に隠れ住むファントムが、天使のような歌声を持つ少女クリスティーヌに出会い秘密のレッスンを行う。クリスティーヌのオペラ座デビューの失敗を機にファントムの存在が明らかになり、追い詰められ恋にも敗れるという基本的な筋立てはロイド・ウェバー版と同じだ。だが、脚本アーサー・コピット&音楽モーリー・イェストン版では「ファントム」ことエリックの生い立ちと母親への思慕、クリスティーヌとの関係がより繊細に描かれる。
ともに音楽の申し子のようなエリックとクリスティーヌだけに、他の追随を許さない歌唱力を持つトップコンビでの上演が嘱望されていた。これが見事に叶ったのが先の雪組公演だった。望海風斗と真彩希帆は、これまでもフランク・ワイルドホーンが楽曲提供した『ひかりふる路 ~革命家、マクシミリアン・ロベスピエール~』、東急シアターオーブで上演された『20世紀号に乗って』など数々の海外ミュージカルでその実力を発揮してきたトップコンビである。
エリック役の望海風斗は、その母性本能をくすぐるような雰囲気もまたエリックにぴったりで「Hear My Tragic Story(僕の悲劇を聴いてくれ)」「Where In The World(世界のどこに)」などの楽曲でその持ち味を発揮。クリスティーヌ役の真彩希帆は「Melodie De Paris(パリのメロディー)」を歌いシャンドン伯爵の目に留まる場面からして説得力抜群だ。
2人が歌う「Home」のハーモニーはこのコンビの真骨頂。そして、エリックに向かってクリスティーヌが語りかけるように歌う「My True Love(まことの愛)」が心に迫るだけに、その後の急展開がいっそう哀しい。
エリックの秘密を知り彼を支えるキャリエールが重要人物として登場するのも脚本アーサー・コピット&音楽モーリー・イェストン版の特徴であり、彩風咲奈が新境地を見せた。銀橋で向き合うエリックとキャリエールが「You Are My Own(君は私のすべて)」を歌い終わったとき、客席の感動も最高潮に達する。
クリスティーヌを見初める王道の二枚目シャンドン伯爵と、ちょっとコミカルなアラン・ショレという対照的な2役を彩凪翔と朝美絢が役替わりで演じたのも雪組版の見どころだった。今回は彩凪がシャンドン伯爵を、朝美がアラン・ショレを演じる東京公演千秋楽が放映される。オペラ座を牛耳りクリスティーヌを陥れる歌姫カルロッタを演じる舞咲りんは、どこか憎めないところのある役作り。真那春人演じるルドゥ警部の懐の深さも印象に残る。
雪組版に続いて、これまでの上演も続々と放映される。本作をタカラヅカの代表作の1つに押し上げた和央ようか・花總まりの2004年宙組初演版、甘い歌声に定評のあった春野寿美礼が桜乃彩音を新たな相手役に迎えた2006年花組版、持ち味を活かした役作りが新鮮だった蘭寿とむ・蘭乃はなの2011年花組版。それぞれを見比べて、異なる魅力を再確認するのもタカラヅカ・スカイ・ステージならではの楽しみ方だろう。
文=中本千晶
放送情報
『ファントム』('19年雪組・東京・千秋楽)
放送日時:2020年1月1日(水)21:00~
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。
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