深川麻衣が繊細な演技で施した役柄のコンバージョン

NHK総合他の朝ドラ、連続テレビ小説「まんぷく」(2018~2019年)やフジテレビ系「まだ結婚できない男」(2019年)など数々の話題作に出演し、今年の5月にも出演映画「水曜日が消えた」の公開が控えている深川麻衣。

深川は2016年に乃木坂46を卒業して女優としての活動を始め、2017年には舞台「スキップ」で舞台初主演、2019年には前述した朝ドラに出演、そしてドラマ「日本ボロ宿紀行」(テレビ東京系)で連ドラ初主演を務めるなど、女優として着実にステップアップしている。

そんな深川の女優としての魅力が詰まった作品が映画「パンとバスと2度目のハツコイ」(監督:今泉力哉)だ。同作品は「結婚」をテーマにしたコミカルで人間交差点的な恋愛群像劇で、独自の結婚観を持つ"恋愛こじらせ女子"・市井ふみ(深川)が、中学時代の初恋の相手・湯浅たもつ(山下健二郎)と偶然再会したことから始まるモヤモヤしながらキュンとする"モヤキュン"ラブストーリー。映画初出演にして初主演を務めた深川は、同作の演技が評価され「第10回TAMA映画賞 最優秀新進女優賞」を受賞している。

物語は、2年間付き合った彼氏のプロポーズを「私をずっと好きでいてもらえる自信もないし、ずっと好きでいられる自信もない」という理由で断り、「どうしてそんなに人を深く愛せるのか?」と"愛"をこじらせた女性・ふみを中心に描かれていく。恋愛気質ではなく、別れた彼に新しい彼女ができても嫉妬心もわかないふみは、職場であるパン屋からの帰りにバスの営業所の前でパンをかじりながら洗車を眺めることがささやかな楽しみという少々変わり者の女性。

そんなふみを深川は等身大の女性として演じており、変わった人柄を「そんな人もいるよね」と思わせてくれる。「恋愛こじらせ女子」「独自の結婚観」「洗車を眺めるのが楽しみ」といった特徴を並べると、ちょっとどころかかなり変わった印象を受けるが、その変わった部分を自然体の演技でまろやかにしながら「愛って何なのだろう?」「結婚を決める決め手って何だろう?」といったある種の"悩み"に変換させ、見る者が感情移入しやすい人物に作り上げている。

例えば、ふみがたもつに自分の恋愛について語るシーンでは、「私は多分、独りになりたくなっちゃう人なんだと思う。1人の時間が欲しいんじゃなくて、寂しくありたいんだと思う」と明かした後、「意味不明だよね?」と微笑むのだが、深川は自分の性格を言いきるような口調ではなく、ゆっくりと自分の発言を噛みしめるようなせりふ回しで表現。話しながら自分で確かめるように言葉を紡いでいく芝居によって、"変わった人物の自己分析発言"ではなく"自分でも理解できている部分と理解できていない部分がある"といった誰しもが共感できる発言にしているのだ。

そんな変わっている特徴を1人の女性のよくある"悩み"として見せられるのは、深川がふみを特徴ある女性としてではなく普通の女性として演じたからだろう。それには、台本には書かれていないふみのアイデンティティーを深く掘り下げて人物像を一から構築する必要があるし、それを軸にして「ふみならこんな感じで話す」「ふみならこういった間の取り方になる」といった役柄の領域を外さない繊細な芝居が不可欠だ。

同作は日本映画専門チャンネルで【いま、映画作家たちは2020 今泉力哉の場合】と題して特集される、今泉力哉監督作品のひとつとして4月27日(月)にTV初放送される(4月26日に、同特集内でTV初放送の「愛がなんだ」にも深川が出演)。綿密な役作りとそれをしっかりと演じきる"女優・深川麻衣"の魅力に誘引されながら、"モヤキュン"な時間を堪能してみてほしい。

文=原田健

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放送情報

【いま、映画作家たちは2020 今泉力哉の場合】
パンとバスと2度目のハツコイ
放送日時:2020年4月27日(月)21:00~
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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