元AKB48のメンバーで、現在女優として活躍中の川栄李奈。川栄といえばAKB48時代に"おバカ"キャラでブレークし、その愛らしい見た目と規格外のキャラクターで人気を獲得。2015年にAKB48卒業後、女優として活動し、連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(2016年)や「僕たちがやりました」(2017年)、「3年A組-今から皆さんは、人質です-」(2019年)などの数多くのドラマや、映画「デスノート Light up the NEW world」(2016年)、映画「亜人」(2017年)、映画「センセイ君主」(2018年)、映画「泣くな赤鬼」(2019年)など、出演作には枚挙にいとまがないほど活躍しており、女優としての確固たる地位を築いている。
アイドル時代から演技力には定評があり、さまざまな演出家や共演者から演技について賛辞を贈られた川栄の女優としての底力が表れた作品が、初主演映画の「恋のしずく」だろう。
同作は川栄演じるワインソムリエを目指す"リケジョ(理系女子)"の橘詩織が意に反して実習することになった日本酒の酒蔵で、さまざまな人々との出会いや日本酒造りを通じて今までにない喜びを見出していく青春群像劇。物語では、詩織の実習に対して前向きに変わっていく心境の変化や、実習先の蔵元の息子・莞爾(小野塚勇人)の成長、農家の娘・美咲(宮地真緒)の悩みなど、さまざまな展開が描かれているのだが、注目してもらいたいのはタイトルにもある「恋」の部分だ。
タイトルだけを見れば、ヒロインが実習先で恋をする恋愛もののように思いがちだが、実際には詩織の恋については具体的に全く描かれておらず、むしろ日本酒造りに命を懸ける人たちの思いに触れることで成長していく姿がメイン。そんな「好き」や「嫌い」、「思いを伝えられなくてどぎまぎ」、「なかなか縮まらない関係のもどかしさ」といった男女関係のあれこれが皆無な中で、詩織の恋は日本酒造りの発酵のようにゆっくりと熟成されていく。じんわりと熟成された恋心を伝えるラストシーンの詩織の表情をもって形作られる恋心は、まさに日本酒が出来上がるまでの工程と似ており、鑑賞後心をほろ酔いにさせてくれるはずだ。
そんな具体的なきっかけや、劇的な心境の変化のない詩織の恋心の些少な変化を、川栄は繊細に表現。その細やかさの深度に、女優としてどれだけ役に寄り添っているのかが感じられると共に、演じるのではなく"役として作品の中で生きる"ことを体現することで観る者を自然と主人公に感情移入させてくれる。「"芝居を通して何かを伝える"のではなく"作品を通して伝える"、そのために作品の中で1人の人間として精一杯生きる」という信念が感じられ、視聴者にそう感じさせてくれるのは女優としての底力に他ならないだろう。
同作は6月11日(木)に衛星劇場で放送される。2019年に結婚、出産を経て、今後女優として新しい顔を見せてくれるであろう川栄の繊細で深度の高い芝居を通して、女優としての底力を感じてみてほしい。
文=原田健
放送情報
恋のしずく
放送日時:2020年6月11日(木)20:00~
チャンネル:衛星劇場
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。
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