綾野剛と星野源のW主演ドラマ「MIU404」(TBS系)が高視聴率をキープしている。"素性の知れない男"として登場した菅田将暉も視聴者をザワつかせている中、トップ俳優として活躍している綾野剛と菅田将暉が共演し、2014年に公開され海外でも高い評価を得た映画『そこのみにて光輝く』が映画・チャンネルNECOにて放送される。
原作は芥川賞の候補に何度も挙がり、本作で三島由紀夫賞にノミネートされるも受賞に至らず、41歳の若さでこの世を去った小説家、佐藤泰志。死後、佐藤の作品は再評価され『そこのみにて光輝く』、『海炭市叙景』、『オーバー・フェンス』は"函館三部作"として映画化されることになった。
『そこのみにて光輝く』で綾野剛が演じているのは、函館の海沿いの場所でギリギリの生活を送っている家族と出会ったことによって、すさんだ暮らしを送る自分を見つめ直すことになる主人公、佐藤達夫。パチンコ屋でライターを借りたことがきっかけで交流を深め、達夫を兄のように慕うピュアで憎めない少年、拓児を菅田将暉が演じている。
DV、介護、貧困。1980年代に書かれた小説が現代の社会が抱える問題を浮き彫りにし、閉塞感の中、それでも生きようとする人間を描き出す。その生々しさ、光と影を見事に体現した綾野剛と菅田将暉の演技に注目したい。
■酒に溺れ、やがて愛に向き合う主人公を演じる綾野剛の繊細さと色気
綾野剛が演じる達夫は山の採掘現場で働いていたときに起こった事故が原因で仕事をやめ、パチンコと酒に溺れる青年。無気力な生活を送る中で出会ったのが菅田将暉演じる拓児だ。達夫は知り合ったばかりの拓児から家に招待され、海沿いにあるバラック小屋で彼の生活に触れる。寝たきりなのに性欲だけは衰えない父親、すべてをあきらめてしまっているような母親、昼は水産工場で働き、夜はスナックで身体を売り、一家の生活を支えている姉の千夏(池脇千鶴)。函館の短い夏の中、達夫は千夏に惹かれる自分を抑えられなくなっていく。
どん底の日々の中でも明るく生きようとする拓児の純粋さと、どんなにみじめで悲しい想いをしても家族を捨てられない千夏のやるせなさと優しさ。公開当時、綾野剛と池脇千鶴の海の中でのキスシーンが話題になったが、自暴自棄になっていた達夫はこの家族の中に生命の輝きを見出したのではないだろうか?と思わせられる。寡黙な役柄ながら、表情や仕草に愛と誠意を感じさせる綾野の演技が光っている。
■菅田将暉の型にハマらない演技がみずみずしい
ヘビーな状況の物語の中、若さとひたむきさを感じさせてくれるのが菅田将暉演じる拓児だ。金髪の人懐っこい愛されキャラで、赤いママチャリの乗り方からしてユーモラス。達夫が訪ねてきたときに姉の千夏が作ったチャーハンをフライパンからそのままかぶりつく仕草や、トボけた表情は「かわいい!」と思わずにいられないほど天真爛漫だ。
しかし、そんな彼も人には言えない過去を抱えていて、姉の千夏のはからいで植木屋の仕事を手伝い、家族のことを大切に思うゆえに仕事場では自分の感情を抑えて働いている。しかし心を許せる達夫と出会い、一緒に山で働くことを決めた矢先に切なすぎる悲劇が。達夫に殴られ、「俺、もう山に行けねーな」と泣き、達夫に抱きしめられるシーンには心を揺さぶられる。
映画は一筋の希望を感じさせるエンディングを迎えることになるが、菅田将暉の全身から放たれる生命力、躍動感に惹きつけられずにはいられない。
文=山本弘子
放送情報
そこのみにて光輝く
放送日時:2020年8月22日(土)23:20~
チャンネル:映画・チャンネルNECO
※放送スケジュールは変更になる場合があります
詳しくはこちら