当たり前なんて、ない。そして、当たり前は、幸せ――。コロナ禍において、そんなことを考える今、見たい映画が「横道世之介」。この映画が9月21日(月) 映画・チャンネルNECOにて放送される。
舞台はバブルが始まった、1987年。新宿駅には斉藤由貴のAXIA(セットテープ)の大きな広告。長崎県の港町で生まれた横道世之介(高良健吾)は、大学進学のために上京した。
横道世之介は、どこか冴えない18歳。おしゃれでもないし、気がきくわけでもなし、特段カッコいいわけでもない。若干空気が読めないが、誰にでも平等で、純粋。イイヤツなのは間違いない。
入学式で隣になった倉持(池松壮亮)とサンバサークルに入ったり、年上のパーティーガール・千春(伊藤歩)に恋心を抱いたり、ゲイの同級生・加藤(綾野剛)と仲良くなったりと、傍から見ればフツーの大学生活を謳歌していた。しかし、田舎から東京に出てきて、外の世界を知っていくモラトリアム期間は、当事者にとっては特別なものだ。
そんな世之介のフツーな生活を特別にしてくれたのが、付き合いで行ったWデートで出会った超お嬢様の与謝野祥子(吉高由里子)。初対面の言葉が「お名前、韻を踏んでらっしゃるのね!」だったように、しゃべりがバカ丁寧だが、やはり祥子も純粋でどこか空気が読めない。いきなり世之介の実家に押しかけるなど図々しいところもある。
そんな純粋な2人の、かわいらしい恋愛も本作の見どころだ。恋愛の生々しさを感じさせなかったのは、吉高由里子の力量も大きいだろう。世之介と付き合っていた時代の浮世離れした祥子と、16年後に世界を股にかけて仕事をする祥子の地に足がついている感じの対比がいい。
吉高由里子といえば近年、ドラマ「わたし、定時で帰ります。」やドラマ「知らなくていいコト」で同性の共感を呼びまくっている女優だ。女優という手の届かない存在であるが、彼女が演じる女性は、どこか自分の近くにいそうな親近感がある。10代の不思議ちゃん時代の祥子はさておき、20代の祥子は「いそう」な気がする。この秋には、横浜流星とのW主演作『きみの瞳が問いかけている』が公開されるが、これも不慮の事故で視力と家族を失いながらも、毎日を明るく生きる主人公という難しい役柄ではあるが、リアルに演じてくれそうだ。
映画「横道世之介」には、ハラハラドキドキするような大事件は起きない。自分のまわりにもおきそうな小さな事件や出来事が、丁寧に描かれている作品だ。
強烈な印象はないけれど、ときどき「あいつどーしてるかな?」と思い出す人がいる。世之介は、それが「おもしろいヤツ」とか、「いいヤツ」と言われるタイプ。でも、そういう風に思い出してもらえるのが、一番ステキな生き方なんじゃないかと思わせてくれる。自分の普通の人生も、豊かだと気付かせてくれる作品だ。
文=坂本ゆかり
放送情報
横道世之介
放送日時:2020年9月21日(月)6:15~
チャンネル: 映画・チャンネルNECO
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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