ほぼ毎クール、ドラマ出演を果たしている俳優・田中圭。今年は4月にスタート予定だった「らせんの迷宮~DNA科学捜査~」が、新型コロナウイルスの影響で放送延期になってしまったものの、夏には「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」で薬剤師に扮し、秋には「キワドい2人-K2- 池袋署刑事課神崎・黒木」で刑事に、10月31日からは学園サスペンス「先生を消す方程式。」で教師を演じるなど、どんな役でも違和感なく自然体に演じてしまうのだから、すごい。
熱い男でもダメ男でも悪役でもこなす見事な演じ分けなのだか、どの役でも底に流れる"田中圭らしさ"を感じ取れるのも彼の魅力のような気がする。それはきっとセリフの間合いや声のトーン、眼差しなどに現れていて、その"田中圭らしさ"を思う存分味わうのならば、どこにでもいそうな普通の男の役が良いだろう。
今年1月に公開された今泉力哉監督の『mellow』で主演を飾った田中。この作品が11月WOWOWシネマにて放送される。彼が演じたのは、優しいけれど、自分のこととなると少し鈍感なところがある花屋の店主・夏目誠一。誠実で花を愛しており、近づきやすい雰囲気...「こんな人がいるかもしれないなぁ」と思わせる男性だ。面倒見が良くて人当たりも良いことから、亡き父親に代わってラーメン店を営む古川木帆(岡崎紗絵)や近所に住む中学生、花屋の顧客など、彼にひそかに恋心を抱く女性は数多い。しかし誠一は彼女たちの想いに気が付くことなく穏やかな毎日を送っていた。
劇中では憧れの女子中学生の先輩に寄せる想いや、遺した娘への想いなどさまざまな人物の"想い"が交差する。それらの人々の心を丁寧に真摯に受け止める誠一には自然と安心感を覚えるだろう。しかし、ただそれだけではなくて、予想外のことにあたふたしたり、鈍感故に自身に向けられた想いに気が付かなかったりする誠一には、リアルな人間味という"田中圭らしさ"が詰まっている。
夫同伴で理不尽に想いを伝えてくる顧客・青木に「えっ?旦那さんはそれでいいんですか?」と目を泳がせまくりながら状況を理解しようとする姿や、姪っ子のさほが描く誠一に恋する中学生の似顔絵を見て「似てる~かわいいじゃん。でも毛量多くね?」と的外れなツッコミを入れる姿(おそらくさほは中学生の恋心に気が付いている)は、どれもリアリティに満ちたもの。もしやアドリブでは...と思うほどである。
そんなリアルな誠一の存在が、それぞれに想いを伝える登場人物たちの一種の救いになっている本作。起こる出来事は特別なことではないけれど、見終わった後には妙な納得感がある。きっとそれは田中圭だから醸し出せる雰囲気であり、成せる技なのだと思う。
文=津金美雪
放送情報
mellow
放送日時:2020年11月29日(日)21:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
詳しくはこちら