舞台俳優が出演作品について副音声で解説する「どっぷり副音声~ボタンひとつでステージ裏へ~」に、狂言師・野村萬斎さんが登場。今回は、立派な髭を生やしていることから"大嘗会(だいじょうえ)"の鉾を持つ役に選ばれた男と、その髭を剃りたい妻とのけんかを描く狂言「髭櫓(ひげやぐら)」を扱う。
「狂言にしては珍しく夫婦が主軸の話です。"夫婦げんかは犬も食わない"と言いますが、いつの時代も周りから見ると滑稽なものだと感じますね。狂言という言葉にはジョークの意味もありますが、初めての方でも見やすく、面白い演目です。ちなみに男が大役に選ばれた"大嘗会"は、天皇の即位の礼に伴う儀式のこと。令和元年11月に行われた際は雨のため外で行われませんでしたが、こんな髭の男がいたりしないかしらと、ニュースを見ていたのを思い出しました」
敷居が高いと思われがちな狂言。番組では、副音声で解説を入れることで初心者も楽しめるようになっている。
「初めての方も解説があると分かりやすいと思いますし、一度ご覧になった方もさらに掘り下げて理解できます。解説を聞くことで、次のシーンをより効果的に見てもらえるとうれしいですね。中でも気を付けたのは、演技の邪魔にならないようにコメントすること。集中して見ていただきたい場面は声がかぶらないようにしています。狂言には演出家がおらず、演者が演出を自身で担い、外からの目線を持ちながら演じております。世阿弥の言う"離見の見"に当たりますが、その目線が解説に生かされているといいなと思っています。狂言は、登場人物の会話によって物語が進行しますが、時には歌やチャンバラも入ります。日本の古典芸能は総合芸術とよくいわれますが、今回の狂言はミュージカルに近いと思います。お正月らしく底抜けに明るい演目で、人間のおかしさを堪能していただきたいです」
狂言は700年近い歴史を持つ。今もなお楽しめるのは、人間の持つ滑稽さを題材にしているからだという。
「私たちはコロナ禍にありますが、歴史を考えれば、疫病や震災で苦しめられた時代を乗り越えたから今があります。狂言は普遍的な人間の生きざまを描いており、人間が生きている限り、滅ぶことはないように思います。舞台芸術には"生きることは楽しい、明日も生きよう"と思わせてくれる力があります。常にアップデートし、現代性を持つことで、今を生きている人々にも古典の普遍的な面白さが伝わるようにしていきたいですね」
のむら・まんさい●'66年4月5日生まれ、東京都出身。'87年から主宰している「狂言ござる乃座」をはじめ、狂言師として精力的に活動。古典はもとより、映画『七つの会議』('19年)や現代劇、テレビの教育番組などで幅広く活躍している。
撮影=堀内剛 取材・文=玉置晴子 ヘアメーク=奥山信次
放送情報
BSスカパー!×衛星劇場 どっぷり副音声 ~ボタンひとつでステージ裏へ~ 第3回 狂言編
放送日時:2021年1月10日(日)22:00~
チャンネル:BSスカパー!
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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