野村萬斎が稀曲『唐人相撲』で初めての役に挑戦「狂言で唯一アドリブを許される念願の役でした」

「父の90歳の祝いに親子三代でそろって『唐人相撲(とうじんずもう)』を勤めることができたのはとても貴重な体験で、カンパニーとしての充実感と幸せを感じました」
 
低音の美声でとうとうと語る狂言師・野村萬斎さん。人間国宝である父・万作さんの卒寿を記念し、息子・裕基さんはじめ一門総出演の「唐人相撲」を含む2曲が衛星劇場で放送される。

「狂言 ござる乃座 64th ~野村万作卒寿記念『唐人相撲』~」
「狂言 ござる乃座 64th ~野村万作卒寿記念『唐人相撲』~」

撮影:政川慎治

「『唐人相撲』は、狂言の中では最多の40人以上で演じる曲で、なかなか出ない"稀曲(ききょく)"です。20年前、父の70歳祝いの際にわが家で復曲したものなのですが、当時、分かりやすさを重視する新演出を細部に施しました。以来私は"相撲取り"を何度も演じてきました」

唐(ここでは架空の国)に赴いた日本の相撲取りが皇帝に帰国願いを伝えると、最後に勝負が見たいと言われ、その部下たちが次々に挑んでくる。皇帝と相撲取りの間を取り持つ"通辞(通訳)"役に挑むのは、萬斎さんも今回が初めて。

「我々の流儀ではアドリブは禁じ手なのですが、この通辞だけは唯一、場をもたせるいわばMCとして即興が許された役で、念願でした。また、唐人たちが皇帝に向かい、顔の前で腕を組むポーズは、当時撮影中だったドラマ『ドクターX―』(2021年)に"御意ポーズ"として取り入れたもの。実際に舞台を見て、ドラマを見ていたお客さまも喜んでおられましたね。息子は若く吸収力もあり、初めての相撲取り役を頑張って演じてくれたなと思います。父の皇帝は、年功を積んだ一種の神々しさも見せてくれましたし、多様性の中で人間存在を見せる、狂言らしい曲になったと思います」

古典のみならず演劇劇から映像まで、ジャンルを超えた活躍からは、狂言に還元したいという思いがうかがえる。

「狂言に還元しているのか、狂言を輸出しているのか(笑)。シェークスピアに狂言でアプローチするなんて、イギリス人にはできないこと。いろいろな選択肢がある中、700年の伝統ある"型"を持つ狂言を使って演じるというアイデンティティーを持ち続けたいなと思います」

のむら・まんさい●1966年4月5日生まれ、東京都出身。1987年から主宰している「狂言ござる乃座」をはじめ、狂言師として精力的に活動。古典はもとより、映画『七つの会議』(2019年)や現代劇、テレビの教育番組などで幅広く活躍している。

撮影=宮田浩史 取材・文=magbug ヘアメーク=奥山信次(Barrel) スタイリスト=中川原寛(CaNN)

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放送情報

狂言 ござる乃座 64th~野村万作卒寿記念『唐人相撲』~

放送日時:2022年4月15日(日)8:30~

チャンネル:衛星劇場
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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