「季節はずれの宿泊客」は、1993年1月に放送された火曜サスペンス劇場のドラマである。同作は能登半島でペンションを経営する中年の独身女性・田村亜紀(泉ピン子)がヒロイン。亜紀には以前風俗嬢だった過去があり、当時を知る男・福田(石井光三)に付きまとわれていた。そんな矢先、同級生で県警の刑事である望月(角野卓造)の口利きで、妻に先立たれた上司の刑事との縁談が持ち込まれ、亜紀の暮らしにも変化が訪れそうな気配...。この作品が1月6日(水)に衛星劇場で放送される。
日本海の海辺を背景に静かに始まったドラマだが、一人の男の出現から物語は大きく動いていく。いかにも訳ありそうなその男・上野隆を演じたのが西城秀樹。半ば強引に宿泊客として転がり込んできた上野は、プロ級の料理の腕前を披露。亜紀はひと目惚れに近い形で上野に惹かれるのだが、このあたり、2人の心理描写が実にうまい。
脚本の市川森一のセリフの妙もあるが、上野に「あんたは都会のホテルのような臭いがするわ」と言う亜紀が続けて、「私はきっとペンションのおばさんの臭いがするのね」と自虐的に言う。それを受けた上野が「あんたは、なんの臭いもしないよ...大人の女性には珍しい」。すると亜紀は「うれしい。そんな風に言われてみたかった...」と返すのだ。何気ないやり取りながら、このセリフだけで2人が恋に落ちた雰囲気が伝わってくるし、西城のニヒルな笑顔が渋いのだ。
当時の西城秀樹と言えば、歌手としても円熟期にあり、1991年にヒットさせた「走れ正直者」は、アニメ「ちびまる子ちゃん」のエンディングテーマとしても話題となった。一方で時代劇やミュージカルにも積極的に出演するなど、俳優としての活動にも力を入れていた時期である。歌、演技ともに一段上の表現力を身に着けていた時期の作品だけに、本作での演技には深みが感じられる。
ドラマのストーリーに戻ると、その後亜紀は井戸の中に隠された拳銃を発見。これが上野の物だと直感する亜紀は拳銃を隠す。折しも望月刑事から、東京で起きた殺人事件の犯人が能登にいるらしいという情報がもたらされる。上野の正体を知りながらも、警察には通報しなかった。この後、東京から上野の恋人(杉本彩)が現れるなど、ストーリーはさらに複雑に動いていくのだが、サスペンスではあるものの、基本的には大人のラブストーリーだと言える。
ヒロインを演じる泉ピン子も、影のある女の雰囲気を醸して魅力的だ。物語に絡んでいく脇役陣も角野卓造、石井光三とも実にいい味を出している。テンポよく動くストーリーと暗めの映像に、不安げな音楽もうまくマッチ。何より、西城秀樹のいい男っぷりが素晴らしい。改めて彼が俳優としても一流であったことが本作でも証明されたと言えるだろう。全編に哀愁が漂う作品だが、西城の好演がそれを助長し、視聴者はグイグイと悲劇的な終盤に引き込まれていくはず。
西城秀樹のファンだけでなく、大人の魅力に溢れた作品としてお薦めだ。
文=渡辺敏樹(エディターズ・キャンプ)
放送情報
季節はずれの宿泊客
放送日時:2021年1月6日(水)19:15~
チャンネル:衛星劇場
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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