坊主頭が新鮮！佐藤健が意欲を燃やして挑んだ大作ドラマ

TBSテレビ60周年特別企画として2015年に放送された「天皇の料理番」。大正から昭和にかけて宮内省厨司長を務めた秋山徳蔵氏の人生をモデルとして描いたドラマである。史実に基づく作品だが、ドラマ化されるのはこれが3回目。初回の1980年版では堺正章、1993年版では高嶋政伸が主人公の秋山篤蔵(徳蔵氏を脚色している)を演じている。

3回目となった2015年放送のドラマで主演を務めたのは、佐藤健。2007年に「仮面ライダー電王」でドラマ初主演を果たし、2010年のNHK大河ドラマ「龍馬伝」で演じた岡田以蔵役が評判となった。2012年には映画『るろうに剣心』に主演し役者としての新境地を切り拓いた佐藤が、並々ならぬ意欲をもって臨んだのが本作だ。

初めてのシェフ役に挑むために、クラインクイン前年の夏から料理学校に通って料理修行を行った。皿洗いや野菜切りをはじめとしたさまざまなことを学び、実際の調理シーンも佐藤自身が行ったという。当時の佐藤は、『るろうに剣心』で見せた後ろ髪を束ねたヘアスタイルやTBS系ドラマの「ROOKIES」での岡田役でのドレッド・ヘアなど長髪のイメージが定着していたが、本作では坊主頭で挑んでいるのも興味深い。

TBSのメモリアル大作ということもあり、スタッフも精鋭が揃った。プロデューサーの石丸彰彦をはじめ、演出・平川雄一朗、脚本・森下佳子は、大沢たかお主演の『JIN-仁-』や山田孝之＆綾瀬はるかコンビの『世界の中心で、愛をさけぶ』といった、同局の話題作を送り出してきたスタッフである。

共演者も豪華で、篤蔵の妻・俊子役には黒木華。篤蔵の料理の師匠となる華族会館の料理長・宇佐美鎌市に小林薫。同僚コックとして苦労を共にし篤蔵が慕う生涯の友・松井新太郎には、佐藤と「ROOKIES」でも共演した桐谷健太。篤蔵の兄で、東京の大学に進学し弁護士になる夢を持つ秋山周太郎には鈴木亮平。篤蔵にカツレツを振る舞い、料理人への夢を拓くことになる軍隊のコック・田辺祐吉は伊藤英明が演じている。他にも、篤蔵の父・周蔵役の杉本哲太をはじめ、武田鉄矢、高岡早紀、美保純、加藤雅也といった実力者が顔を揃えている。

本作は、片田舎のダメ息子だった篤蔵がいかにして「天皇の料理番」に上り詰めたのかという単純なサクセスストーリーにはとどまらない。妻と家族を愛し、師を慕い、仲間に支えられながら夢を信じて料理の道を突き進む。そんなヒューマンドラマの王道的な作品だ。

本作のロケは岡山県倉敷市の倉敷美観地区で行われたが、TBS緑山スタジオには明治から大正にかけての東京・丸の内の町並みを忠実に再現したオープンセットが造られた。このセットの完成度も素晴らしく、作品の魅力を大いに倍加させてくれている。

ドラマの舞台となる明治後期から大正・昭和にかけての日本は、世界史的にも異例と言われるほどの急成長を遂げた時代である。セットだけでなく、当時の服装や人々の暮らしぶりを忠実に再現するべく、スタッフが徹底したリサーチを敢行したとも言われるが、まさに時代の息吹が画面から伝わってくるようだ。この大作が、6月にTBSチャンネル2で放送される。涙と笑いのグランドロマンを楽しみたい。

文＝渡辺敏樹(エディターズ・キャンプ)

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