2020年に乃木坂46を卒業し、現在女優として活躍中の井上小百合。井上といえば、多くのメンバーが所属している乃木坂46の中でも随一の舞台出演経験を誇る「舞台女王」で、その演技力の高さは折り紙付きだ。そんな彼女の演技力はもちろん、舞台役者としてのポテンシャルの高さが光る作品がミュージカル「學蘭歌劇『帝一の國』」シリーズだろう。井上は、木村了扮(ふん)する主人公・赤場帝一の恋人・白鳥美美子役を熱演。
同シリーズは、古屋兎丸の人気コミックを舞台化したもので、日本の中枢に多くの優秀な人材を輩出している中高一貫の超名門男子校・海帝高校に入学した帝一が、「総理大臣になり日本の長となる」という野望のために将来政界のトップの座が約束されている生徒会長の座を目指し、1年生時から奮闘する姿を描く青春コメディ。2014年の「學蘭歌劇『帝一の國』」から、2015年の「-決戦のマイムマイム-」、2016年の「-血戦のラストダンス-」、2017年の「-大海帝祭-」まで計4作が上演された。7月25日(日)に衛星劇場にてシリーズ4作品が一挙放送される。
シリーズ第1作となる「學蘭歌劇『帝一の國』」は、大部分が帝一の学園内での活躍が描かれており、濃いキャラクターたちが熱く立ち回ることでおかしみを誘うコメディで、若手実力派俳優たちがひと癖もふた癖もある芝居で楽しませてくれる。一方、帝一と違う高校に通っている美美子の登場シーンはけっして多くはないのだが、そんな中で井上はキラリと光る芝居を披露。
ほぼ全員が熱く体育会系のノリできびきびとした雰囲気で進行していくため、若手俳優たちのパワフルな演技から生じる力強さと圧が半ば強制的に観客を作品の世界観に引き込んでくれる演出となっているのだが、唯一の女性キャストの井上も男性キャストの力強さに劣ることのないパワフルな芝居で、ステージ上の熱を下げることなくかわいらしい女性を表現。全体の「パワフルさ」を損なうことなく、声色、口調、しなやかな動きなどで「かわいらしい女性」を表し、見事に相反する条件を両立させている。
また、帝一の同級生・大鷹 弾(入江甚儀)と出会ったことで生まれるときめきに葛藤する場面では、コミカルな芝居でコメディエンヌっぷりを発揮。
さらに、自宅の2階から外の帝一と糸電話を使って会話するシーンでは、使った糸電話を回収する際、一度役を離れたかのような舞台ならではの素の部分を見せて笑いを誘うテクニックを披露。「舞台経験の豊富な井上なのだから当たり前だ」と思うなかれ。同作は、井上にとってほぼ初めての舞台なのだから驚きだ。
若手俳優陣のパワフルさに負けない力強さ、パワフルでありながらしっかりと女性らしさを表現し切る繊細さ、コミカルな芝居で見せるコメディエンヌっぷり、ほぼ初舞台という浅い経験ながらベテラン舞台役者が見せるテクニックとそれを披露する度胸など、同作品を見て彼女の舞台女優としての圧倒的なポテンシャルを感じてみてほしい。同シリーズ以降、彼女が絶え間なく舞台に出演しているのもうなずけるはずだ。
文=原田健
放送情報
學蘭歌劇『帝一の國』
放送日時:2021年7月25日(日)12:30~
チャンネル:衛星劇場
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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