「世にも奇妙な物語」は、1990年4月に放送開始され、現在も続いているフジテレビ系のオムニバスドラマである。アメリカで人気を博した「ヒッチコック劇場」を思わせるような上質なミステリー作品が多く、当初からファンが多かった。ロングラン作品に成長し、韓国など海外でリメイクされたこともある。
時代とともに作風が変遷し、近年では毛色の変わった作品も目立っているが、初期の頃は時折背筋が凍るようなゾッとする怖いドラマも少なくなかった。そんな頃の代表作のひとつに、「くせ」というタイトルのエピソードがある。1990年7月に放送され、菊池桃子がヒロインを務めた。ストーリーを紹介すると、吉永真理子(菊池桃子)は、美人でありながら、いつも野暮ったいメガネをかけ、あえて地味に振る舞って美貌を隠すような生活をしていた。なぜなら、彼女は人からほめられると、無意識のうちに何かを盗んでしまうという奇妙なくせがあったからだ。
そんなある日、真理子は叔母に頼まれて仕方なくお見合いをすることになる。相手は笹岡良平(宮川一朗太)という青年。良平は真理子に一目ぼれし、「結婚を前提に僕と付き合ってほしい」と告げる。しかし、自らの奇妙なくせを気にする真理子は彼の思いを受け入れることができない。ところが、帰宅した真理子の腕には、良平の腕時計があったのだ...。そこで真理子は「やってしまった」と気づくのである。
こんな導入からして、思わず物語に引き込まれてしまうのだが、主人公の設定と造形からして面白い。人から「ほめられる」ことで悪癖のスイッチが入るという点がユーモラスだが、よく考えると恐ろしい。「認められたい、ほめられたい」という承認欲求は、人間の本能ともいえる心理であり、「抑えることが難しい」ところがミソなのだ。
良平の出現によって、図らずも真理子の心は揺れていく。盗みぐせを気にしながらも、本音では彼の思いを受け入れたい彼女は、結局は彼と結ばれることになるのだが、そこからの物語は、まさに本作の真骨頂だ。
彼女のくせを知り、なんとか直そうと奮闘するもうまくはいかない。このあたりは、多くの視聴者が想像しそうな展開なのだが、さすがは「世にも奇妙な物語」。クライマックスは、まさに視聴者の斜め上を行く衝撃的な結末へと向かっていく。
ヒロインを演じる当時の菊池桃子は、人気絶頂のアイドルから女優業へと本格的なシフトをしていった頃。本作では美しさを隠しているという設定ながらも、やはり隠しきれない美しさを発揮。自らのくせに悩む心理描写、良平の思いを知ってからの葛藤など、その一挙手一投足が非常に魅力的である。そして何より、少し頼りない感じもするが心優しい良平を演じる宮川一朗太が適役過ぎる。
派手さこそないものの、夏向きのミステリーとして今観ても楽しめる佳作というべき作品。劇中の衣装や俳優たちの髪型、街の風景なども大人には懐かしく、若者の目には新鮮に写って大いに楽しめるはず。本作は、8月にフジテレビTWOで放送される。この機会に、番組の原点ともいうべき時代の作品にぜひ触れてみたい。
文=渡辺敏樹(エディターズ・キャンプ)
放送情報
世にも奇妙な物語(半分こ/くせ/死ぬほど好き)
放送日時:2021年8月23日(月)10:30~
チャンネル:フジテレビTWO ドラマ・アニメ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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