アイドル黄金期の中でも隆盛を極めた"花の82年組"の一人、キョンキョンこと小泉今日子。ショートカットの髪型や代表曲「なんてったってアイドル」に象徴されるように、型にはまったアイドル像から飛び出し、真っ直ぐな芯を持って昭和のアイドルシーンを駆け抜けた稀有な存在だ。
その一方で、デビュー間もない時期よりドラマや映画に出演し、女優・小泉今日子として数多くの代表作を生み出してきた。天真爛漫な姫をキュートに演じた「あんみつ姫」(1983年)、田村正和との親子役が話題となった「パパとなっちゃん」(1991年)、ブルーリボン賞主演女優賞を獲得した『空中庭園』(2005年)、主人公の母親役で出演したNHK連続テレビ小説「あまちゃん」(2013年)...と、その年代ならではの魅力を湛えたキャラクターはいずれも印象に深く刻まれている。
そうした彼女の多彩なキャリアの中でも、ワケありの風俗嬢、ゆり子役に扮した映画『風花』(2000年)はかなり異質の作品といえるのではないだろうか。
ゆり子は、死別した夫の残した借金返済のため、幼い娘を故郷の母親に預けて東京の風俗店で働いている。浅野忠信演じる泥酔して万引き事件を起こした若手官僚・廉司と出会い、故郷の北海道を目指し奇妙な旅へ。孤独を抱える2人が雪の降りしきる北海道の大地で傷ついた心を少しずつ温め合っていくという大人のロードムービーだ。
9月17日(金)にWOWOWシネマにて放送される同作は、2001年9月に53歳で逝去した名匠・相米慎二監督の遺作。『翔んだカップル』(1980年)でデビューした相米監督は、薬師丸ひろ子主演の大ヒット作『セーラー服と機関銃』(1981年)、東京国際映画祭の記念すべき第1回の大賞(ヤングシネマ大賞)を受賞した『台風クラブ』(1985年)などで知られる。ワンシーンワンショットの長回し撮影が特徴的で、没後20年となる今なお作家性が高く評価されている名匠だ。
冒頭の満開の桜の木の下で2人が目覚めるシーンや雪原を一人歩いていく姿など、どこか切なさの残る幻想的な映像も強い印象を残した。小泉と浅野とは初共演ながら、車中で展開する自然な掛け合いや互いに傷や寒さを温めあう姿も魅力的に映る。
演じるということに真正面から向き合っている同作、引いては相米監督との出会いが、新たな小泉の一面を引き出したようにも思える。現在は新プロジェクト「明後日」を立ち上げ、代表取締役として"作る側"にもなった。年齢を重ねた今も新たな挑戦を続ける中、演者として大きな飛躍を遂げた本作で、女優・小泉今日子の魅力を改めて感じてほしい。
文=中川菜都美
放送情報
風花(2000)
放送日時:2021年9月17日(金)19:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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