抜群の身体能力と格闘センスが光る！映画界のアクションを変えた千葉真一の伝説に迫る

2021年8月19日、日本を代表するアクションスター、千葉真一が亡くなった。「千葉ちゃん」の愛称で親しまれ、第一線から退いた後も多くのファンに愛された千葉。存在感ある演技や切れ味鋭いアクションなど俳優としての魅力はもちろん、映画界にアクションを根付かせ、多くの後進を育てるなどその貢献ははかりしれないものがある。

■深作欣二監督との出会いとアクション俳優としての飛躍

千葉は1939年生まれ。体操でオリンピックを目指していたがケガで挫折。夢破れた千葉は大学を中退し、スポーツ界から映画界に舵を切った。59年に東映に入社した千葉は、60年より子ども向けヒーロー番組で活躍。童顔で目の大きい親しみやすいルックスで少女雑誌の表紙も飾っていた千葉は、イケメン特撮ヒーロー俳優の元祖というべきか。

そんな千葉が初めて映画に主演したのがSP(二本立ての添え物として製作される中編映画)『風来坊探偵　赤い谷の惨劇』(1961年)だ。ふらりと町に現れた探偵、西園寺五郎が、その地にはびこる悪党たちに戦いを挑むアクション映画。監督はこれがデビュー作の深作欣二で、後に多くの作品で組む2人が出会ったという意味でも記念すべき作品といえる。

見習い時期にスタントもこなしていた千葉は、殴る蹴るの格闘アクションだけでなく、跳んだり跳ねたり高い身体能力を見せつける。会社側も千葉をアクション俳優として売り出そうと狙っていたそうで、後に深作監督はとにかく現場で千葉を動かし続けたと語っている。銃撃戦やダイナマイトを使った爆破など派手な見せ場も盛り込まれたこの作品は、若い千葉×深作コンビのエネルギーあふれる痛快作に仕上がった。

そんな千葉がブレイクしたのが、30%を超える視聴率を誇った人気テレビドラマ「キイハンター」(1968～73年放送)である。深作監督も参加した本シリーズは、国際警察の秘密組織が活躍するサスペンス。千葉は危険な見せ場を一手に担い、スタントも自ら演じていた。キレの良い身のこなしに加え、どんなに危険なシーンも顔出しで演じる姿に日本中が熱狂。彼が演じた風間洋介の人なつこくてユーモラスな愛されキャラも手伝って、その名を日本中に知らしめた。

シリーズ放映中の1970年には、アクション映画を担う人材育成を目指し、ジャパンアクションクラブ(JAC)を設立。動ける俳優が多ければより高度なアクションが可能というプロデューサー的発想で、日本のショウビズ界にアクションを根付かせることになる。スタントマンではなく俳優を育てるという千葉の方針のもと、JACは志穂美悦子や真田広之、大葉健二、堤真一ほか多くの才能を生みだした。

一方、私生活では、シリーズでヒロインを演じた野際陽子と1972年に結婚。長女は『キル・ビル』(2003年)に父と一緒に出演し、「やっちまいな！」でおなじみの料亭で激しいアクションを披露した真瀬樹里である。

出世作「キイハンター」の風間のイメージを、そのまま映画に持ち込んだのが1970年にスタートした「やくざ刑事」シリーズだ。千葉の役どころは犯罪組織で潜入捜査を行う特捜刑事、隼田志郎。第4作『やくざ刑事 俺たちに墓はない』(1974年)で隼田は、ダイヤ強奪を狙う犯罪組織に戦いを挑む。アクロバティックなアクション、目もくらむ高所スタント、乗馬にガンアクション、容赦なくボディをぶつけ合う激しすぎるカーチェイスなど、映画ならではの派手な見せ場が満載。アクション以外にも、シリーズを通して描かれるライバル・内田良平とのバディ感、濃厚ラブシーンなど東映らしい不良テイスト満載の大人向けエンタメ作である。

■「空手バカ一代」や「ゴルゴ13」といったマンガ原作映画に時代劇に挑戦した『柳生一族の陰謀』

そんな千葉のターニングポイントの一つが『激突！殺人拳』(1974年)に始まる「殺人拳」シリーズだ。空手と中国武術をミックスした殺人拳の使い手を描いたこのシリーズは、『燃えよドラゴン』(1973年)によるカンフー(空手)ブームも手伝い大ヒット。それを機に千葉主演の空手&格闘技映画が次々に製作され、一つの時代を築くことになった。

素手で喉仏を引きちぎるなど壮絶な見せ場を満載した「殺人拳」シリーズが過激系の最右翼だとすれば、その対極にあるのが「けんか空手」シリーズである。極真会館の創設者、大山倍達の半生をマンガ化した「空手バカ一代」を原作にした本シリーズは、真の空手道を模索する大山の姿を描いた実録ものだ。

極真会館で空手を学んだ千葉は、映画的な脚色は控えめに大山を熱演。激しい立ち回りを長回しで見せつける、迫真のアクションが味わえる。シリーズは日本空手界との確執を軸にした『けんか空手 極真拳』(1975年)、ドラマチックな人間ドラマを盛り込んだ『けんか空手 極真無頼拳』(1975年)、大山人気にプロレス界が目を付ける『空手バカ一代』(1977年)の3本。多彩な格闘シーンや、実際の牛を使った迫真の牛殺し、クマとの死闘や『燃えよドラゴン』を彷彿とさせる鏡の間での死闘などユニークな見せ場も多い。ユーモアを封印し、宮本武蔵さながらの求道者を演じるシリアスな千葉がじっくり堪能できるシリーズだ。

「けんか空手」に限らず、マンガ・劇画ブームに沸いた70年代はマンガ原作映画が数多く公開された。さいとう・たかおの代表作を映画化した『ゴルゴ13 九竜の首』(1977年)もその一つ。天才スナイパー、ゴルゴ13ことデューク東郷が香港で暗躍するクライムアクションだ。すでに1973年に高倉健主演の『ゴルゴ13』が公開されていたが、今作はテイストを一新。千葉が主演しただけに驚異の狙撃テクニックのほか、格闘アクションや香港の2階建てバスの窓から屋根によじ登ったり、崖から宙づりになって狙撃したりするなど、アクロバティックな見せ場も加わった。短いパンチパーマ姿で男臭さをプンプン放つ、千葉ちゃん流ゴルゴが味わえる1本である。

デビュー以来、現代劇をベースに活躍してきた千葉が、初めて本格的に挑んだ時代劇が深作監督作『柳生一族の陰謀』(1978年)だった。時代劇に憧れ剣の訓練を重ねていた千葉は、静かに殺気を放つ柳生十兵衛を熱演。黒装束に隻眼の十兵衛のイメージは鮮烈で、千葉の当たり役として定着。ドラマ版「柳生一族の陰謀」(1978～79年放送)やドラマ「柳生あばれ旅」シリーズなども製作された。

そんな千葉版十兵衛が魔界の怨霊たちに戦いを挑むのが、深作監督作『魔界転生』(1981年)だ。十兵衛が父・柳生但馬守宗矩(若山富三郎)や宮本武蔵(緒形拳)と剣を交える、フィクションならではの楽しさがたっぷり味わえる異色作。幻想的な映像の中、剣豪たちが火花を散らすオリジナリティあふれる世界観は、公開から40年を経てもいまだ新鮮さを失っていない。

『柳生一族の陰謀』以降、時代劇への出演が急増した千葉は、愛弟子・真田広之主演作『忍者武芸帖 百地三太夫』(1980年)で出演のほかアクション監督も担当した。時代劇のアクションは撮影所の殺陣師が作るものだが、千葉は常識を覆して新たなスタイルを確立。後の大ヒットドラマ「服部半蔵 影の軍団」シリーズでも、JACメンバーと共に忍者アクションに新風を巻き起こした。谷垣健治アクション監督の「るろうに剣心」シリーズなど近年の時代劇の新たな流れも、その原点は千葉のチャレンジ精神にあったのだ。

文＝神武団四郎

神武団四郎●映画ライター。「映画秘宝」「MOVIE WALKER PRESS」「シネマトゥデイ」などへの寄稿、パンフレットの執筆、編集など。編書に「別冊映画秘宝 絶対必見！SF映画200」(洋泉社)など。監修書に「テック・ノワール ジェームズ・キャメロン コンセプトデザイン画集」(玄光社)、「メイキング・オブ・007／ノー・タイム・トゥ・ダイ」(玄光社)など。ゴジラよりコング派。

この記事の全ての画像を見る