CMなどで明るくかわいらしい姿を見せている広瀬すずだが、ひとたび演技となると、途端に"凄み"が出る。特に影のある役は秀逸で、そのふり幅は不思議な魅力を放つ。そんな広瀬すずの影の演技を堪能できるのが、映画『三度目の殺人』だ。
『三度目の殺人』は、是枝裕和監督が第71回カンヌ国際映画祭でパルムドール賞を受賞した『万引き家族』(2018年)の前年に世に送り出した作品だ。『そして父になる』(2013年)の福山雅治、『海街Diary』(2015年)の広瀬すず、気心の知れた俳優たちと再タッグを組んだ。
弁護士の重盛(福山雅治)は、二度目の殺人で投獄された三隅(役所広司)の弁護を担当することになったが、三隅の一度目の殺人事件の判決を下した裁判官が、重盛の父親だという因縁も。容疑を認めている三隅は極刑の可能性が高いのだが、「勝ち」にこだわる重盛は無期懲役に減刑させるために奔走する。
犯罪者と弁護人として対峙する三隅と重盛。共通点のないふたりが、司法の抱える問題点、家族との関係、表面からは見えない奥底でどんどんシンクロしていく。それを象徴する役所広司と福山雅治の接見室の壁を挟んだ名演が光る。
しかし真実を攪乱させるように次々と変わる三隅の自供。調べているうちに浮かび上がった犯行に対する違和感から見えてきたのは、三隅と、彼が殺害した被害者の娘・咲江(広瀬すず)との関係だった。
広瀬演じる咲江は女子高生であるにもかかわらず、一切笑顔がない役。それだけで彼女が抱えている闇の深さがうかがえるが、三隅との関係を物語るエピソードにだけ、「よく笑う子だった」というくだりがある。果たして、殺人の真の動機は何なのか――。犯人と父親を殺された女子高生との間に、どんな関係があるのか、そして、シンクロしていく犯人・三隅と弁護士・重盛を示唆する雪のシーンに咲江が出てくるのははぜなのか――。
タイトルは『三度目の殺人』だが、三隅が三度目の殺人を犯したわけではない。法廷ミステリーという形で「人が人を裁けるのか」を提示した是枝監督だが、『三度目の殺人』の意味も、三隅の殺人の真相も明確に描いていないので、最後まで視聴者はモヤモヤを抱えたままになる。しかしそれこそが、是枝監督の意図なのだ。
追っても追っても真実にたどり着けない重盛と、得体の知れない三隅。何のために殺したのか、そもそも本当に三隅が殺したのか――。ベテラン役所広司と福山雅治の迫真の演技と、2人を輝かせる広瀬すずの影に満ちた演技に注目してほしい。
文=坂本ゆかり
放送情報
三度目の殺人
放送日時:2022年2月1日(火)20:50~
映画・チャンネルNECO
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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