前・雪組トップコンビ望海風斗真彩希帆ならではの異色のサヨナラ公演『f f f ーフォルティッシッシモー』

望海風斗
望海風斗

「楽聖」ベートーヴェンが苦難を乗り越えて、交響曲第9番「喜びの歌」を生み出すまでの過程を描く、雪組公演『f f f ーフォルティッシッシモー』が、タカラヅカ・スカイ・ステージにて放映される。音楽の強弱記号「f f(フォルティッシモ)」よりもさらに強く、という思いの込められたタイトルだ。

圧倒的な歌唱力を持つ前・雪組トップコンビ望海風斗と真彩希帆ならではのサヨナラ公演であり、上田久美子による挑戦的な脚本・演出も話題になった作品である。

真彩希帆
真彩希帆

幕が上がると、そこは天国への入り口。神のために作曲したバッハは通過OKだが、貴族のために作曲したヘンデルやモーツァルトは足止めされている。さて、その後に続くベートーヴェンはいかなる道を選択するのか?というところから物語は始まる。

ナポレオン(彩風咲奈)、ゲーテ(彩凪翔)、そしてルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(望海風斗)。政治、文学、音楽それぞれの分野で「人間の時代」を切り開いた3人が大砲の音と共に登場、銀橋に居並ぶ場面は圧巻だ。この作品で描かれるのは、激動の時代に生まれ落ちた巨星たちが交わした、あるいは、交わしたのかもしれない対話である。

彩風咲奈
彩風咲奈

神や王侯貴族が支配する時代が幕を閉じようとする中、ルートヴィヒ(望海風斗)は自分自身の音楽を創り、それを広く市民に届けることを目指す。そんな大志を抱きつつも、身の回りのことは全くできないルートヴィヒはいかにも人間くさく、「楽聖」が一気に身近に感じられる。

それは『アル・カポネ』『ドン・ジュアン』、『ひかりふる路』のロベスピエール、『20世紀号に乗って』のオスカー、『壬生義士伝』の吉村貫一郎など、多彩な役どころを演じ、さらに『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』のヌードルスで男役の集大成を見せた望海だから醸し出せる、抜け感なのかもしれない。

いっぽう、「自由・平等・友愛」の理想を掲げつつ戦争に明け暮れるナポレオン(彩風咲奈)は、この作品ではルートヴィヒの脳内における対話の相手である。憧れと反発の末にわかり合っていく過程を、望海と彩風が丁々発止の芝居で見せる。

また、ゲーテ(彩凪翔)は「動」のナポレオンに対し、現実を受け入れながら時を待つ「静」の存在。望海と共にこの作品で卒業した彩凪が、一歩引いて時代を俯瞰する狂言回し的な役割を的確に果たしている。

そして、ルートヴィヒにしか見えない「謎の女」(真彩希帆)。受け入れ難いのに離れられない、そして、受け入れたとき初めて真の自分になれる、そんな関係性である。男女の恋愛とは次元が異なる深い絆を、二人が奏でるハーモニーで描き出していく。

心の故郷のような親友ゲルハルト(朝美絢)とその妻ロールヘン(朝月希和)、高嶺の花の貴族令嬢ジュリエッタ(夢白あや)、ウィーン宮廷における一番の理解者ルドルフ大公(綾凰華)など、さまざまな人物がルートヴィヒを取り巻く。

ウィーン会議を主導した宰相メッテルニヒ(煌羽レオ)、恋敵ガレンベルク伯爵(真地佑果)、そして、ダンスでルートヴィヒの心情を表現する「小さな炎」(笙乃茅桜)など、退団者にもそれぞれ見どころのある役が当てられている。

サヨナラ公演としては異色だといわれた作品だが、時代に挑み続けたベートーヴェンと同じく、宝塚も時代に挑みながら進んできた劇団だ。『f f f』もまた、その一歩であり、望海風斗には最後までその歩みの先頭を走ることが期待されたのだと思う。

文=中本千晶

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放送情報

『f f f -フォルティッシッシモ-』('21年雪組・東京宝塚劇場・千秋楽)

放送日時:2022年3月13日(日)20:00~

チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE 

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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