タイトルの「アバランチ」とは「雪崩」のこと。映画『新聞記者』(2019年)で第43回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した気鋭の監督・藤井道人が手掛けた連続ドラマが、日本映画専門チャンネルで放送される。
藤井監督曰く「『ヤクザと家族 The Family』で出会い、様々な時間を一緒に過ごしてきた綾野剛さん主演のピカレスクエンターテイメント」(藤井道人Instagramより)であるこのドラマ。綾野が演じる羽生誠一は警視庁公安部の捜査官だったが、尊敬する先輩刑事・藤田(駿河太郎)が死んだ事件で負傷し退職。藤田の婚約者だった山守美智代(木村佳乃)が警視庁に勤務しながら秘密裏に始めた組織アバランチに参加する。他にも、ハッカーの牧原大志(千葉雄大)、元警視庁爆弾処理班の打本鉄治(田中要次)、自衛隊の特殊部隊にいた明石リナ(高橋メアリージュン)というメンバーがおり、さらに警視庁捜査一課で上司を殴ってしまい左遷された西城英輔(福士蒼汰)が加わって、アバランチは様々な不正を働く巨悪に立ち向かう。
「必殺仕事人」シリーズや往年のドラマ「ザ・ハングマン」のような設定で、はぐれ者だが腕っぷしの強い者たちがチームを組み、腐敗した権力者たちの悪行をネットにさらし成敗していく。最大の敵は官僚のトップに立つ内閣官房副長官の大山健吾(渡部篤郎)。この大山のやることがかなり悪どく、渡部の怪演もあって「恐ろしすぎる」と地上波放送時は評判になった。
羽生はもともと正義感が強くて仲間思い。自分のせいで藤田が殉職してしまったという事実に打ちのめされるが、そこから立ち直ってアウトローらしいふてぶてしさも身につけ、大山にとっても手強い存在になっていく。これまで熱血刑事役も汚職警官役も演じてきた綾野の魅力が存分に活かされ、清濁併せ呑んで、くるくると変わる豊かな表情から目が離せない。特に、羽生が警察を辞め町工場に勤めていた雌伏の時期を描く第5話は、ひとつの独立した映画のようで必見だ。ちなみに「MIU404」(2020年)、「恋はDeepに」(2021年)、本作と連続ドラマ3本続けて綾野が車にひかれるシーンがあり、「またひかれた!」と話題になった。
福士蒼汰が演じる西城は、警察官としてやっていく自信を失いかけていたが、羽生に「もう一度、信じてみないか。正義の力ってやつをさ」とアバランチに誘われる。神奈川県警の幹部である父親との確執も抱えた複雑な役どころで、第6話ではその父と真正面から対峙することになるが、福士は抑えた表情と声のトーンでエリートゆえの苦悩を演じ、新境地を開いた。10年前は「仮面ライダーフォーゼ」(2011年)だった福士がリアルヒーローを演じられるようになったという役者としての確かな成長を感じさせる。最終話、羽生と西城が「正義の力」という言葉をもう一度口にする伏線回収のシーンは、その意味でもエモい。
藤井監督が総合演出を務めているだけに、とにかく映像が美しくスタイリッシュ。綾野や高橋が迫力の体当たりアクションを見せる戦闘場面やカーアクション、クライマックスの爆破テロまで映画並みのクオリティの映像が楽しめる。
文=小田慶子
放送情報
アバランチ(全10話)
放送日時:2022年4月30日(土)12:00~
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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