歌舞伎町を舞台にした和久井健の人気漫画を綾野剛主演で実写化、園子温監督がメガホンをとった「新宿スワン」は今から7年前に大ヒットを記録。その2年後には「新宿スワンⅡ」が公開になった。
本作で綾野が演じる主人公の白鳥龍彦は金髪、天然パーマがトレードマークのスカウトマン。帰りの電車賃もないどん底人生で通りをうろついていた時に、スカウト会社バーストの幹部に無鉄砲さが気に入られ、眠らない街で生きることになる。命知らずの熱い性格と人懐っこさ、情の厚さで周りから徐々に認められていく龍彦の信条はスカウトした女のコたちに必ず幸せだと言わせること。無条件に人を信じてしまう愛すべき単純野郎、龍彦のライバル、秀吉を演じているのが俳優のみならず監督、プロデューサーとしても活躍中の山田孝之だ。オールバックにレザーのジャケット、全身黒のファッションに身を包み、半端ない目力の秀吉はいかにもヒールな佇まい。因縁の関係である龍彦を歌舞伎町で見かけた時に醸し出す負のオーラに圧倒される。
■龍彦とは対照的なキャラクターで存在感を放つ秀吉
「マジ1分だけお願いします」、「俺と一緒に世界を守らないか?」とあの手この手で女のコに声をかけ、軽いノリながら全力投球。スカウトマンとして信頼を得ていく龍彦に対して、ライバル会社ハーレムに所属する秀吉は"新宿統一"を目論む野心家。借金などの問題を抱え、歌舞伎町にやってくる女のコたちの相談に乗り、人生をやり直すことができるよう良心的な店を紹介する龍彦と自分がのし上がるために女のコを利用する秀吉。2人が初めて歌舞伎町の路上で顔を合わせ、過去のことを全く覚えていない龍彦に「あんた誰?」と言われ、「知らねーわけねーだろ?」とボコボコにする時の秀吉は背筋が凍るような迫力。瞳孔を開き、憎しみの炎を燃やす山田孝之の演技が怖すぎる。それだけに2人の間にいったい何があったのかと思わせられる。
■ビルの屋上でタイマンを張る後半の展開に息を呑む
やがて秀吉が薬の売買に手を出していることに龍彦は気づく。モヤがかかっていた2人の衝撃的な過去が明かされ、ビルの屋上で殴り合うシーンは「新宿スワン」のクライマックスだ。「この街で生きていくにはオマエは優しすぎるんだよ!」と秀吉が言い放てば龍彦が「オマエの人生、間違いだらけなんだよ!」と叫び、血だらけになりながらお互いに本音を吐露するバトルは見応えたっぷりである。ちなみにシマを横浜に拡大しようと目論む「新宿スワンⅡ」(今は主演クラスの成田凌も脇役で出演)に山田孝之は回想シーンとして登場するが、「新宿スワン」のエンディングで残された謎の解明は続いていくため、物語は繋がっている。歌舞伎町に生きる人間の生々しさ、痛さ、切なさがクローズアップされたのが「新宿スワン」なら、続編はアクションシーンも派手になり、エンターテインメント色を強めた印象。コメディアンとしての才能も発揮している綾野剛の熱演、歓楽街の闇を体現したような山田孝之の存在感と演技が光る。
文=山本弘子
放送情報
新宿スワン
放送日時:2022年5月29日(日)14:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
新宿スワンⅡ
放送日時:2022年5月29日(日)16:30~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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