映画『いま、会いにゆきます』(2004年)や連続テレビ小説「ひよっこ」(2017年)などで知られ、2022年公開の邦画実写で記録的なヒットを叩き出した『余命10年』、さらに58歳差の友情を描く映画『メタモルフォーゼの縁側』の公開が控えるなど、何年経っても心にあり続けるような作品の脚本を数多く手がけてきた岡田惠和。そんな作品群の中で、佐藤健が"僕"と"悪魔"の二役を演じ分け、彼の代表作の一つとなったのが『世界から猫が消えたなら』だ。
本作は、映画プロデューサーの川村元気が執筆して100万部突破のベストセラーとなった小説を、佐藤主演で映画化した人間ドラマ。余命わずかの郵便配達員"僕"を主人公に、彼の前に自分と同じ顔をした"悪魔"が現れ、「大切なものを一つ消すことと引き換えに、1日の命をあげる」と提案されたことから、"僕"の不思議な7日間が始まるファンタジックな物語だ。
"僕"の恋人を宮崎あおい(※「崎」は正しくは「立さき」)、映画マニアの親友を濱田岳、疎遠になった父を奥田瑛二、死別した母を原田美枝子が演じるなど、実力派がズラリ登場。また監督は、人気CMディレクターで、『ジャッジ!』(2014年)、『帝一の國』(2017年)などで知られる永井聡が務め、本編をドラマティックに彩る音楽を小林武史が担当。日本を代表するクリエイターが集って、あらゆる世代の胸を打つ感動作を作りあげた。
佐藤の演技力を、たっぷりと堪能できる点も大きな見どころだ。穏やかで優柔不断、のんびりした性格の"僕"。一方、短気で皮肉屋の"悪魔"。一人二役に挑戦した佐藤が、同じ顔ながら性格の違う二人を、表情や口調、仕草によって、しっかりと演じ分けている。コミカルもシリアスも演じられる、振り幅の広さを持った佐藤だからこそ、演じられた役柄といえよう。
すごいのは、一人二役の演じ分けだけではない。本作は、やさしい"僕"の声のモノローグから幕を開け、その響きの心地よさもグッと物語に入り込んでいける大きな要因になっている。突然に余命宣告された"僕"は、"悪魔"からの提案によって一つずつあるものが消えていくことで、自分が誰と触れ合い、どうやって生きてきたのか、どれほど愛に包まれていたのかを確かめていくのだが、その過程によって起きる"僕"の変化を、佐藤が丁寧に、繊細に演じ、見る者の心を掴んで離さない。
愛猫の大切さを噛み締め、ギュッと抱きすくめる"僕"の表情(抱きしめられた猫の表情もものすごくキュート!)、死期が迫った母を前に「ありがとうって、ちゃんと言えたらよかった」と号泣する場面は、いつまでも忘れ難い名シーンとして思い返す人も多いことだろう。
全編にわたって、切なくも優しいセリフを見つけることができる本作。もがき、悩み生きることの尊さ。人生には必ず別れがありながらも、その中で誰かと出会うことの幸せにあふれている。生と死の向き合い方を、映画というエンターテインメントの中に描いてみせる脚本家の岡田の手腕はさすがの一言。"僕"の成長と、人生の本質をしっかりと寄り添わせることで、観客もそれぞれの思い出や考えさえも呼び起こすことができるような、共感度抜群の物語として完成させている。
文=成田おり枝
放送情報
世界から猫が消えたなら
放送日時:2022年6月17日(金)16:45~
チャンネル:スターチャンネル1
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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