「2019年本屋大賞」に輝いた小説を映画化した『そして、バトンは渡された』。"血の繋がらない親子"というテーマのもと、複雑な家庭環境で育ってきた女子高生・優子と、何者にも束縛されない美女・梨香という2人の女性の物語を並行して綴るハートフル・ドラマだ。
血の繋がらない親に育てられ、4回も苗字が変わった女子高生の優子。訳あって義理の父・森宮さんと2人暮らしの彼女は、とある人の言葉を守り、誰に対しても笑顔を振りまいていた。それが原因で同じ学校の女子から反感を買っていた結果、音大受験者が3人もいるクラスで、卒業合唱のピアノ奏者に選ばれてしまう。
一方、何度も夫を替えながら自由奔放に生きている魔性の女・梨香。チョコレート工場でパートとして働いていた彼女は、シングルファザー・水戸さんと結婚し、友達思いの泣き虫な女の子・みぃたんの母親となる。幸せな毎日を過ごしていた3人だったが、最高のカカオ豆を見つけた水戸さんが「自分のチョコレートを作る」という夢を追いかけるため、ブラジル行きを独断で決定したことから、家族関係にヒビが生じてしまう。
主人公の優子を演じるのは、原作の大ファンだったという永野芽郁。原作を読んだ彼女の母が「もしも、この小説が映画化されるなら、優子を芽郁に演じてほしい」と言っていたという心温まるエピソードもある役柄を、ナチュラルな演技と明るい笑顔で体現した。中でも、物語の鍵となるピアノの演奏は、撮影の3か月前からレッスンを重ねたという永野。彼女自身のパーソナリティーを反映してか、心に染み入る優しい音色が物語に深みを与えている。
義理の娘・優子への愛情を料理に込める森宮役は、田中圭が演じる。お得意の等身大の演技で、森宮というキャラクターにリアリティーを持たせているが、さらに、森宮の誠実で実直な性格をブラウンのセルフレームメガネと白いシャツというファッションでも表現。柔らかなセリフ回しと癒やし系の微笑みは、劇中の優子はもちろん、視聴者の心も温めてくれる。特にショッピングモールで優子が運んできたコーヒーについて言葉を交わす時の優しい声や、卒業合唱での優子のピアノで大号泣する姿からは、娘への愛が痛いほどに伝わってくるだろう。
そして、自身初となる母親役を演じる石原さとみが、もう1人の主人公でもある梨香を好演。映画の冒頭に登場する高校の同窓会シーンでは、鮮やかなロイヤルブルーのワンピースを難なく着こなす圧倒的な美貌で、梨香の"魔性の女"ぶりに説得力を持たせている。その一方で、社会人として成長した男子たちを遠慮なしに品定めするという肉食ぶりを披露する梨香だが、その言動に一切の嫌味が感じられないのも、石原の無邪気な笑顔と甘い声のなせる技といえるだろう。
優子と梨香。一見、無縁にみえた2人の物語は、優子の元に届いた一通の手紙をきっかけに交差していく。温かなナレーションの正体やタイトルに込められた思いなど、さまざまな秘密が明かされていく過程にも、さまざまな愛が詰まっている感動作を、メインキャスト陣の演技に注目して味わって欲しい。
文=中村実香
放送情報
そして、バトンは渡された
放送日時:2022年7月9日(土)13:00~、2022年7月13日(水)17:35~
チャンネル:WOWOWプライム
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