時代劇専門チャンネルの開局20周年記念作品として制作され、テレビ放送に先駆けて2019年1月に劇場公開された『闇の歯車』。藤沢周平による同名のサスペンス時代小説を原作に、犯罪に一攫千金の夢を見る男たちのドラマを描き出した一級のエンターテインメントである。
主演を務めたのは永山瑛太。本作の主人公で、裏稼業で身を立てて暮らす町人・佐之助を演じた。一緒に暮らしていた女に逃げられ、武家の男の手先となった佐之助は、荒んだ暮らしを送っていたが、過去を吹っ切って、新たに出会った女・おくみ(石橋静河)との暮らしのために金を得ようとする。酒亭で出会った謎の男・伊兵衛(橋爪功)から儲け話を持ちかけられる佐之助。儲け話とはいっても押し込み、つまりは犯罪である。そして仲間となる男たちは、浪人の清十郎(緒形直人)、商家の若旦那の仙太郎(中村蒼)、白髪の前科者・弥十(大地康雄)と、一癖あるがどうにも頼りない面々。果たして佐之助の運命は...といった物語である。
監督は、『鬼平犯科帳 THE FINAL』『三屋清左衛門残日録』シリーズなど、数多くの時代劇を手掛けている山下智彦。現金強奪に一獲千金の夢を見る男たちの人生の歯車が静かに狂い始めるのだが、時代劇でありながらどことなく退廃的な雰囲気が漂う映像は、ヨーロッパ映画のフィルムノワールを思わせ、思わず引き込まれてしまう。
サスペンスが軸になっているが、登場人物の造形が凝っていることもあり、人間ドラマでもあり、佐之助はじめ女も絡むラブストーリー的な要素もあるなど、重層的な作品となっている。瑛太は、本作の印象として「時代劇では武士の役が多いので、貧しい町人が貪欲になっているところを出したかった。山下監督の威勢のいい声はいい空気を作ってくれる。こういう現場が好きです」と語っている。
瑛太はもちろん、脇役たちも皆光っているが、やはり伊兵衛役の橋爪功の存在感はさすがだ。所作から立ち回り、せりふ回しに至るまで、円熟味溢れる演技で画面を引き締めている。そんな橋爪の懐の深い演技を吸収するかのように、瑛太の受けの芝居も見事だ。
橋爪は本作での瑛太との共演に関して、「芝居中に伝わってくる彼の色気と、想像を超えてくる芝居で、気持ちよく乗せてもらいました。またぜひ時代劇で共演したい」と語っている。
まさに、新旧の名優同士による化学反応が本作の魅力を後押ししているといえるだろう。ほかには、男たちが出会う酒亭「おかめ」の主人・繁蔵を演じる中村嘉葎雄も好演。犯罪を企む男たちがどんな会話をしようとも無関心に板場で煙草を吹かす。無駄口はきかないものの、佐之助たちを鋭く観察している様子が静かながら迫力を感じさせるのだ。
そんな大人の俳優たちの演技合戦も堪能できる良作『闇の歯車』が、時代劇専門チャンネルで8月7日(日)に放送される。瑛太のファンはもちろんだが、近年では希少な時代劇ファンをうならせるような作品である。
文=渡辺敏樹
放送情報
闇の歯車(主演:瑛太)
放送日時:2022年8月7日(日)15:00~
チャンネル:時代劇専門チャンネル、日本映画+時代劇 4K
※放送スケジュールは変更になる場合があります
詳しくはこちら