「第91回キネマ旬報ベスト・テン」新人女優賞、「第30回東京国際映画祭」東京ジェムストーン賞、「第60回ブルーリボン賞」新人賞など、2017年の映画賞の新人賞を総なめにした石橋静河。幼少期よりクラシックバレエを始め、10代でバレエ留学。帰国後、ダンサーとして活動をするうちに、女優の道が彼女の前に開かれた。最果タヒの詩集を原作に石井裕也監督が手掛けた「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」だ。石橋はこの作品で、夜はガールズバーで働く看護師の美香を演じ、女優として開眼することになった。
今回『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』がTV初放送となりますが、本作との出会いは詩集ですか?脚本ですか?
「詩集を最初に読ませていただきましたが、言葉よりも感覚で刻まれる感じがしました。言葉にできない感覚を言葉にしてくれる詩集というか。普段自分も周りの人も話さないようなこと。感じているけど言葉にできない、もやもやした感じのもの。東京にいて息苦しいなと感じること。それらを言葉にしてくれている感じがしました。だから自分の中にたまっていたものが、スッと洗われるような感覚でしょうか...こうして言葉にすると恥ずかしい気がします(笑)」
この作品を象徴する感覚のような気がしますが?
「個人的なことというか、みんなで『そうだよね』と言い合えることではなくて、独りになって感じることが描かれているのかなと思います」
本作で数々の賞を受賞されたときの気持ちをお聞かせください。
「実感がないです(笑)。それに値することを自分ができたのか分からないですし、その思いは今もなくならないです。撮影時、苦しさやつらさを感じていましたが、映画自体を評価していただけたことで、あの苦しかったことは本当に小さなことだったんだと救われた気持ちになりました。お芝居をする場にいていいんだって、そう言ってもらえた気もしました」
苦しかったということですが、当初はどんな気持ちで現場入りされたのですか?
「カメラの前でどう闘えばいいのかも分からない状態で入ったので、美香になるとかそういうことを考える余裕もありませんでした。実は今回の美香役は演技を見てもらうのではなく、お話しして選んでいただいたんです」
撮影前に監督から「君はうそしかついていない」と言われたとか?
「そうです。役が決まるか、決まらないかよりも衝撃的な出来事でした。でも、監督にそう言われる心当たりがあったんです。自分が傷つかないためにはどうすれば良いかということで頭がいっぱいだったので、図星でした。どうして見抜かれたんだろうと思いましたが、そこで立ち止まったら先に進めないので、絶対に美香役をやりたいと思いました」
厳しいスタートでありながら前向きだったんですね。
「そうですね!前向きにならざるを得なかった(笑)。苦しいけど、新しい扉を自分で開けようとしていて。それってすごく怖いですけど、喜びでもありました。自分で自分はこうだと決め付けていた自意識やプライドがどんどん剥がされて、私ってこんなだったんだと思えたので、つらいけど楽しい感覚でした」
そういう風に意識が変わったのは、いつぐらいですか?
「一番印象的な、慎二(池松壮亮)との階段のシーンを撮影したころです。あのころ、映画は1人で作るものではないということが分かってきて、周囲を少し見られるようになってきたんです。そういう状態でお芝居したら、すごく近いところでコミュニケーションしているような感覚になれて。それはこれまでにない感覚で、お芝居って面白いんだなと初めて感じました。それから美香についても最初は理解できなくて。でも彼女が発する強い言葉が、徐々に本心じゃないんだと分かり始めたんです。ありがとうと言いたいだけなのに文句を言ってしまったり、根本的な気持ちを人に伝えられなかったり。そういう相反するものが強くある人だということが分かってから、この人を自分が一番理解して、素敵な人だということをどうにかして表せないかと思っていました」
役を理解するために、自分自身のことも突き詰めて考えるタイプですか?
「その役が何を考えているのかを考える以前に、その役を捉える自分自身のことも分かってないとできないと思ったので、まず自分はそこから始めようと思いました。この作品に出会うまで、自分がそういうことを考えずに生きてきたことに気付いたので、今はするようにしています」
そこから見えた意外な自分はありましたか?
「撮影中は本当に苦しかったですし、終わった後もすごく落ち込みましたけど、こうして生きてるし(笑)。私って意外に芯が強いなとか、自分を信じる気持ちは大事だなとも思いました。生命力とか意外にあるなって(笑)。自信を持つことってすごく難しいことですが、自分のことを信じないと前に進めない。謙虚でいることも大切ですが、前に進むには勇気が必要だから、自分を信じようと思います」
お父様の石橋凌さん、お母様の原田美枝子さんは、各賞を受賞したことについて何か言われましたか?
「『おめでとう』くらいです。あと『いい映画だったね』とも言われました。実は私、俳優にはなりたくないと思っていたんです。2人の仕事を尊敬してはいましたが、いかに大変かも感じていたので俳優の道に進もうとは思っていませんでした。特別苦労を見せられたわけではありませんが、子供は感じることがあったんですよね」
今は違いますか?
「本作を経験して、やっと自分が生まれたという感覚です。だから、"夜空"は私の役者としてのゼロポイント。スタート地点という気持ちです」
今後はどんな女優になりたいですか?
「日々考えているのですが、全然答えが出ません。でも、自分が演じる役を一番理解している人でありたいと思っています。そして、自分が出会う作品や役にどれだけ自分を投げ出せるかが大事なのかなとも思います」
今後チャレンジしてみたい作品やジャンルは?
「何でもやってみたいですが、なかでもコメディーは難しいと思うんです。人を笑わせることは本当に難しいと思いますし、まだ私には未知のもの。でも、だからこそ知りたいです。あと、ミュージカル映画もやってみたいです。もともとバレエをやっていて、今も踊りを続けているので、踊ることは好きなんです。いくつかの作品で歌わせていただいて歌うことも好きなんだということが分かりました。それを全部できるとするとミュージカル映画だと思うので、いつかやってみたいです」
文=及川静 撮影=土井一秀
Hair&Make=村上綾 Styling=中本宏美
放送情報
映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ
放送日時:2018年5月6日(日)19:00~
※27日(日)、31日(木)は、本編前後に石橋静河をゲストに迎え貴重なトークを送る。
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。
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