現代では、テクノロジーの進化によって自分の気持ちをいつでも手軽に届けられるようになった。しかし、本当の「想い」を大切な人に届けるということは、どんなに社会が進化しても現実には難しい。そんなことを考えさせてくれた映画が、2003年に公開された『星に願いを』である。
本作は、2001年公開の香港映画が原作。香港のアカデミー賞3部門を受賞し、日本公開時にも若い女性層を中心に大好評を博した。ピュアなラブストーリーが女性たちの心をストレートに捉えたのだが、その内容を日本風にアレンジしてリメイクされ、主演を竹内結子が務めている。舞台は北海道函館市。事故で失明し、声も失ってしまった青年・笙吾(吉沢悠)は心を完全に閉ざしてしまったが、担当看護師の奏(竹内結子)は彼を献身的に支える。2人はいつしか言葉を超えて特別な存在になっていた。だが笙吾は交通事故で命を奪われてしまう...。あまりに厳しい現実の前に奏は絶望する。ところが、不思議な出来事が起こった。流星のチカラによって数日間だけ笙吾は再び生命を与えられたのだ。しかも視力が回復し、声も出せるようになっていた。ただし、生前とは違う全く別の人間としての復活であり、誰も彼が笙吾だとはわかる人間はいなかった。奏でさえも...。
奏にとって、今の笙吾は無神経な他人にしか見えないのだ。その存在が他人に知られると、笙吾は永遠にこの世界から消滅してしまう。 残されたわずかな時間で、果たして2人の心は再び通じ合うことができるのか...。
まさに、「本当の気持ち」を伝えたいのに伝えられないもどかしさに満ちたこの映画は、全編が切なく、だからこそ2人の純粋な"想い"が胸を締め付けるピュアであるがゆえに儚く切ない、そんな純真無垢なラブストーリーである。
作品の印象としては、竹内結子の醸し出す、儚くも美しい繊細な魅力だ。同年の作品である映画『黄泉がえり』でも「泣けるヒロイン」像が定着した感がある。もちろん、ストーリー自体が切ないので、奏の悲しい心情や感情を爆発させる場面などは、脚本上でも巧みに表現されているはずだが、それでも竹内の演技があったからこそ、という感が強い。別な女優が演じたら、当然違った印象になっただろう。単なる演技力を超越した、竹内自身の人間の底からこぼれ出るような悲しみ...。それが伝わってくるような気がしてならない。
相手役の吉沢も、当時は映画やドラマに引っ張りだこで多忙だったはずだが、複雑な心情をあぶりだすような丁寧な演技に好感が持てる。
監督は『非・バランス』(2001年)、『ごめん』(2002年)等の作品で瑞々しい感性と確かな演出が評価されている冨樫森。香港版オリジナルよりも青春色を強め、若々しい2人の切ない恋の想いと行動をリアルに描きだした。ピュアなラブストーリーを描くうえで、函館の風景を取り込んでいる点も秀逸だ。新島橋、八幡坂、赤レンガ倉庫、路面電車、西波止場、旧ロシア領事館、外人墓地、そして函館山の夜景...。ロマンにあふれるスポットが点在する函館の街は、本当にこの映画で見られる奇跡が起こりそうな不思議な魅力を醸している。
北の港町を舞台にした、切なくも美しい恋物語。「星に願いを」がWOWOWで放送される。「星に願いを」かけてでも、もう一度彼女の新しい作品を見たいと思ってしまうのは、きっと筆者だけではないだろう...。
文=渡辺敏樹
放送情報
星に願いを
放送日時:2022年8月5日(金)04:30~、8月12日(金)06:15~
チャンネル:WOWOWシネマ、 WOWOW4K
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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