さまざまな役に完璧になりきる演技力の高さから"カメレオン俳優"と呼ばれ、映画にドラマにバラエティーにと縦横無尽に活躍する若手俳優・磯村勇斗。2014年に俳優デビューした彼が初めてレギュラーの座を掴んだのが、平成仮面ライダーシリーズの第17作で、2015年10月~2016年9月に放送された「仮面ライダーゴースト」だ。
本作には3人の仮面ライダーが登場。主役は西銘駿が演じる天空寺タケルの「仮面ライダーゴースト」で、仲間や妹を守るために戦う「仮面ライダースペクター」の深海マコトを山本涼介が演じる。磯村は地球を完璧な世界に変えるために侵攻を開始した眼魔世界の住人・アラン、「仮面ライダーネクロム」として出演する。
実は本作をまとめた「仮面ライダーゴースト Blu-ray COLLECTION」には、アランを主役としたスピンオフ映像「アラン英雄伝」が収められている。ここでは磯村の魅力が詰まった「アラン英雄伝」にスポットを当ててみよう。
アランが住む眼魔世界は戦いがない"完全な世界"だが、心や、個人の命に価値がない世界。しかし1950年に初めて地球を訪れた時、アランは空の青さ、自然の美しさに心を動かされる。その後2005年に再び地球に降り立ち、眼魔世界にアクセスしてきた考古学者・西園寺主税とともに、魂が込められた"眼魂"を集め始めるようになる。
アランは当初、アバターという形で地球に来ていて、独特の価値観を持って行動する。普段は淡々とした雰囲気だが、マコトと再会した時のやり取りやバトルの回想では、眼光鋭く、切るような気迫を放つ。その一方で、西園寺が取り出した「たこ焼き」を見た時の驚きの表情など、普段のアランとのギャップについクスっとするシーンもある。演技力の高さによってアランというキャラクターが鮮烈な存在感を帯び、のっけから引き込まれてしまうのだ。
やがてアランは眼魔世界での陰謀により、人間界で生身の身体で生きるようになる。限りある生命、死への恐怖に戸惑うと同時に、人々とのふれあいにより命の大切さを知るようになる。命に価値はないとしていたアランから、命の尊さを知ったアランへ。役柄の変化に合わせて、磯村の演技もより豊かになっていく。
眼魔世界から放たれた刺客との戦いでの焦り、恐怖は心に刺さるほど鬼気迫る。生身の身体になったことによって、初めてたこ焼きをハフハフしながら頬張った時は、これ以上ないというくらいの至福の表情となる。
またアランを諭してくれていたフミ婆が亡くなった時、孫のハルミに「フミ婆のことをもっと教えてくれないか」と語りかけるシーンでは、悲しみと想いが交錯した絶妙の表情を見せてくれる。
さらにこの作品で、磯村は俳優として初めて「涙の演技」にチャレンジしたという。アランの中に押し寄せる言葉にできない感情。それを絶妙な間と演技で表し、涙が落ちた瞬間は、セリフの素晴らしさもあって、見ている方もつい目が潤むシーンに仕上がっているのだ。
演技に注目して「アラン英雄伝」を見てみると、磯村がアランになりきっていることに改めて気づく。その演技力によってアランという人物の感情がストレートに伝わってくるのだ。見終わった後にはきっと、アランという存在が見る者の胸に強く刻まれていることだろう。磯村の魅力が炸裂する「アラン英雄伝」には、本編にはないオリジナルのエピローグも収められている。ファンならずとも、ぜひ一度見ていただきたい作品だ。
文=堀慎二郎
放送情報
仮面ライダーゴースト アラン英雄伝
放送日時:2022年10月2日(土)11:00~
チャンネル:東映チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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