藤子・F・不二雄の読みきり作品に「値ぶみカメラ」という1作がある。1981年に発表された漫画で、未来から来たカメラ販売員・ヨドバが登場する連作の一編だ。原作は短編ということもあり、一般的な知名度こそ高くないが、藤子ファンの間では人気が高い。この作品は2008年にWOWOWの『藤子・F・不二雄のパラレル・スペース』で実写化されている。
藤子作品の実写化は決して珍しくないのだが、本作の特徴は「異常なまでに忠実な原作の再現度」にある。監督を務めた箭内道彦の意向により、原作漫画のコマ割りをほぼそのまま映像化する演出がされており、登場人物の表情やポーズ、配置などが原作の漫画通りという実験的な試みがなされているのだ。
漫画は静止画なので、時には登場人物の動きも不自然になったりするのだが、そんなこともお構いなし。特に主演を務めた長澤まさみは、表情やポーズ、衣装などほぼ完全に原作を再現しており、なぜかセリフもほとんど棒読みに近い。ただ、それが漫画らしさを助長していて、不思議な魅力を醸し出している。極端な寄り目の表情など、生身の人間には難しいと思える場面も忠実に再現しているのは流石だ。
本作で長澤が演じる竹子は、骨董品店の娘でカメラマン志望しており、店の常連客で青年実業家の倉金(ケイン・コスギ)から求愛されていた。竹子の母(渡辺えり)は結婚を勧めているが、本人は乗り気ではない様子。実は、仕事仲間のカメラマン・宇達(諏訪雅)も竹子に恋心を抱いていた。ある日、竹子は珍しいカメラを持ったヨドバ(Bose)という男に出会う。
そのカメラは、被写体の価値を計る「値ぶみカメラ」で、原材料費の「本価」と正札価格の「市価」に加えてこれから生み出す利益を計る「産価」が計測できるものだった。しかし、竹子の部屋で説明していたところに母親が現れて、ヨドバは「値ぶみカメラ」を置いたまま慌てて逃げてしまった。この後、竹子は倉金にプロポーズをされて返事を求められる。返事を渋る竹子だったが、そこに宇達が現れて竹子に求愛する。竹子は、「値ぶみカメラ」で2人の男の価値を比べようとするが...。
藤子ワールドをここまで忠実に再現すること自体に感動させられるが、そこで生まれるある種の滑稽さを受け入れられるかどうかで、本作の評価は大きく分かれる。ただ、長澤の吹っ切れた演技には、やはり類まれな女優魂を感じさせた。母親役の渡辺をはじめ、宇達を演じた諏訪(劇団「ヨーロッパ企画」)ら舞台畑の共演者たちも好演。倉金役のケインも漫画らしい造形とカタコトのせりふ回しが実にハマっており、中毒性のある怪演ぶり。さらに、父親を演じた安齋肇の存在感も抜群だ。クセの強い役どころながら、狂言回しとして重要なヨドバのキャスティングは難しいところだったと思われるが、スチャダラパーで活躍していたラッパーのBoseを起用するあたり、箭内監督のセンスの良さを感じさせた。
そんな異色作の「値ぶみカメラ」が、日本映画専門チャンネルで10月13日(木)より放送される。ある意味で衝撃的な作品ゆえに、初回放送時には賛否両論が渦巻いたが、藤子ファンの多くは原作の再現性へのこだわりに感動していた。ただ、「本当の人の価値とは何であるか」という哲学的なテーマを含んだ内容だけに、見る価値のあるドラマであることは疑いない。
文=渡辺敏樹
放送情報
藤子・F・不二雄のパラレル・スペース「値ぶみカメラ」
放送日時:2022年10月13日(木) 7:00~ほか
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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