渡邉美穂が「グッドモーニング、眠れる獅子」で魅せた「ツン」なアイドル像

今年7月に日向坂46を卒業し、1人の女優として歩み始めた渡邉美穂。そんな渡邉がアイドル時代のラストに、現実とは全く異なるアイドル像とその演技を超越するほどのインパクトを与える芝居で1人の女性の成長を演じ切った作品がドラマ「グッドモーニング、眠れる獅子」だ。

同作品は、数々の仮面ライダーシリーズ作品で主役のスーツアクターを務め、「ミスター平成仮面ライダー」の異名を持つ高岩成二の顔出し初主演となる痛快アクションで、椿隆之、井上正大、西銘駿、佐野岳といった過去の仮面ライダー主演俳優らが敵役として登場するところも見どころ。渡邉は本作のヒロインで女優志望の売れないアイドル・綿貫玲実を演じる。

50歳を過ぎて芸能マネージャーとなった九條和真(高岩)は、担当する強気で勝気な売れないアイドル・玲実(渡邉)には煙たがられ、邪険にされながらも、公私ともに懸命に応援していた。そんなある日、玲実のもとに、ヒット作連発の大物監督が手掛ける大型配信ドラマの主演オーディションの話が舞い込む。かねてからの夢を叶えるチャンスに奮起する玲実だったが、半グレ集団のトラブルに巻き込まれてしまう...というストーリー。

顔出し初主演の高岩のキレッキレのアクションはもちろん、アクション以外の芝居も見どころの中心として描かれていくストーリー展開なのだが、渡邉はヒロインとして高岩の芝居に並び立つほどの真に迫った芝居を見せている。

玲実は女優志望でありながら事務所の方針でイベントやグラビアの仕事ばかりの毎日に嫌気が差しており、イベント中も浮かない表情でこなすという日々。日向坂46として活動していた経験がある渡邉にとっては、いわば"笑顔でファンに元気を与えていた渡邉美穂"とは真逆の役柄で、普段の渡邉とのギャップが面白い。九條に対する態度も終始"ツン"で、それが意外とハマっており新たな魅力を見せてくれる。加えて、やる気がないながらもライブシーンで見せる見事過ぎる歌唱パフォーマンスに、日向坂46での活動で培った高いスキルが垣間見えるところもポイントだ。

さらに、女優オーディションという人生の関門を通して、理想と現実にもがく姿や諦めきれない夢に向かってひたむきに頑張る姿などを細やかに表現。渡邉の微に入り細を穿つような"女性的な"芝居が、高岩の力強く迫力のある"男性的な"芝居と上手い具合に対比構造を生み出して作品に良いリズムを与えている。

そんな中で、特筆すべきはクライマックスシーンでの渡邉の芝居だろう。危険なシチュエーションの中で、自分のことを我が身より大事に思って応援してくれる人の愛に溢れた行動にあてられ、ちっぽけなプライドや「自分がどう見られているか」といった些末なことを全て忘れて、感情が溢れる姿は、それまでのストーリーを忘れてしまうくらいのインパクトがあり、「これだけの演技ができたことが、女優業に専念する決意を固めたきっかけになったのでは？」と感じてしまうほどだ。

高岩の顔出しの芝居、スーツを着ていない状態でのキレの増したアクション、かつてヒーロー物で同一人物を演じた者同士が繰り広げるバトル、小気味良いストーリー展開といった満載の見どころの中、丁寧に1人の女性の成長を描き切った渡邉の、トラウマを乗り越える場面で魅せるインパクト大の迫真の演技に注目してもらいたい。

文＝原田健

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