柳楽優弥菅田将暉小松菜奈が三者三様の狂気を見せる、新感覚の群像劇『ディストラクション・ベイビーズ』

狂気と暴力の果てにあるものは何か。衝動に突き動かされ一線を越えてしまう若者たちの姿を描き"衝撃の青春群像劇"として話題を集めた映画『ディストラクション・ベイビーズ』。本作は、エッジの効いた作風が国内外で高く評価された真利子哲也監督の商業映画デビュー作。そんな尖った才能の下に、主演の柳楽優弥をはじめ、菅田将暉、小松菜奈ら、気鋭の若手俳優が集結した。3人とも、公開当時は俳優としての成長が著しい20代。そんな彼らが繰り広げるのは、痛々しいほどまでにぶつかり合う名演技の応酬だ。

ケンカにめっぽう強い高校生・泰良(柳楽優弥)は弟と2人で暮らしていたが、突然家を出て市街に向かい、強そうな相手を見つけてはケンカを吹っかけるようになる。そんな泰良に声をかけてきたのが、同じく高校生の裕也(菅田将暉)。面白いことをしようという裕也の提案で、2人は通行人を標的にして無差別に暴力を振るい始める。車を強奪した2人は、偶然乗り合わせていたキャバクラ嬢の那奈(小松菜奈)を乗せたまま、車を飛ばして郊外へ。互いの素性も知らないまま、3人は奇妙な道中を繰り広げていく。

(c)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

本作で特筆すべきは、何よりも柳楽の怪演っぷりだろう。彼が今回演じるのは、何かに取り憑かれたかのように無分別な暴力を振るい続ける少年だ。ひたすらにケンカする彼は、血まみれになっても止まらない。打ちのめされても立ち上がる柳楽の姿からは、悍ましい怪物のような凄みさえ感じられる。セリフもほぼなく、表情からも人間らしい営みが感じられず、常軌を逸したとしか言いようのない行動を繰り返す泰良。そんな少年に説得力を持たせて具現化できたのは、ひとえに柳楽の演技力の賜物だろう。キャラクターのバックグラウンドも謎に包まれたまま、生身の身体一つでどこか"人間ではない"存在を表現しきったことには驚きを禁じえない。

対して、柳楽演じる泰良とバディを組む少年・裕也は、ある意味ではとても人間らしい存在だ。人間の醜悪な面だけを煮詰めたかのように打算的で自分勝手で、泰良という怪物に媚びへつらいながら彼を操ろうとする。見ず知らずの他人を殴りつける泰良の姿をゲームのように楽しみながら、自分の立場が危うくなると逆上して暴れだす裕也。そのクズっぷりも柳楽の怪演に負けず劣らず話題になったが、それほどに菅田の演技が光っていたという証だろう。最初は少し軽薄なだけの少年に見えたのに、次第に彼の中にもどす黒い狂気が眠っていることに気付かされる。そんな二面性を巧みに表現した菅田の変幻自在っぷりは感嘆に値する。

(c)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

そして忘れてはならないのが、2人の狂気に巻き込まれる少女・那奈を演じた小松だ。映画『渇き。』(2014年)で長編映画デビューを飾った彼女は、着実に女優として成長。本作では事件に巻き込まれながらも、やがて狂気に侵されていく少女を演じている。怪演の柳楽、二面性の菅田ときて、小松の演技も負けてはいない。3人が行動を共にするのは物語の後半部分だが、そこからの小松の変貌ぶりには目を見張るものがある。

モンスターとも呼べる泰良、その"怪物"に便乗して凶暴性をあらわにする裕也、暴力の連鎖に絡め取られていく那奈。3人の狂気がアンサンブルを奏で、単純な暴力映画とも青春映画とも呼べない新たな群像劇が誕生した。八面六臂の活躍を見せる柳楽・菅田・小松の俳優としての成長が伺えるという点でも、一度は見ておきたい作品だ。

文=本永真里奈

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放送情報

ディストラクション・ベイビーズ
放送日時:2022年11月12日(土)22:15~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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