安美錦が相撲ファンに愛された理由、「何か」を期待させる取組

写真左から、やくみつる、安治川親方(元関脇・安美錦)
写真左から、やくみつる、安治川親方(元関脇・安美錦)

大関を目指せた逸材、ケガと闘い続けた不屈の力士、兄弟そろっての関取、計45手を繰り出した技巧派、横綱大関経験者の頼れる先輩、関取在位117場所の息の長い活躍。安美錦を彩る言葉を思い返すと、これほどあるのかと驚かされる。その姿はフジテレビONEで2月に放送される「大相撲いぶし銀列伝」#30 安美錦篇でも振り返ることができる。

■出世を阻んだ高い壁と多くのケガ

長い現役生活にわたり、モチベーションを高めるための闘いに、これほど恵まれた力士は珍しいかもしれない。兄がいて、逸材の後輩がいる。ただ、モチベーションには事欠かないが、モンゴル人力士と東欧系力士の高い壁は、安美錦の出世を阻んだ。そして、多くのケガが安美錦の相撲をむしばみ、狭めたように思われる。

もし10年早く生まれていたら、安美錦はチャンスに恵まれていたかもしれない。そして、ピークが突き押し全盛時代に突入する前であれば、多くのケガを防げたかもしれない。振り返ると、安美錦ほど不運な力士はいなかったともいえる。だが、この時代に生まれたからこそ、安美錦は安美錦たり得たのではないか。

■土俵際の強さと人を引き付ける「何か」

白星をたぐり寄せるために不断の努力と工夫を重ね、時には変化、時には技巧で相手を翻弄する。際立っていたのは土俵際の強さだ。攻められて追い込まれているように見えて、逆転に必要な間合いを取りながら、安美錦は出方を見ている。直線的に決めにくるところを、狙いすましたようにかわし、投げる。

大相撲の様式美を求めるファンは、真っ向勝負を求める。相手の良さを引き出す、力と力の攻防を期待する。もしくは、力を凌駕する技を期待する。故に変化やラフな攻防、引きに対して苦言を呈する風潮がある。何をしても許されるのは、かつての舞の海や炎鵬のような小兵に限られるのである。だが、安美錦は違った。人を引き付ける「何か」があったのだ。

写真左から、内田嶺衣奈(フジテレビアナウンサー)、やくみつる、中村玉緒、安治川親方(元関脇・安美錦)

■伝わる相撲が取れる魅力的な力士

厳しい見方をされがちな取り口であっても、安美錦の相撲には工夫と哲学を読み取ることができた。変化であっても自分に負けて、楽に勝とうとして、とっさに出るものでないことをファンは知っていた。分かる人には分かるという訳ではない。伝わる相撲が取れるというのは、誰にでもできることではないのだ。

身長184cm、体重150kg近い安美錦が、あの取り口でこれだけ愛される力士だったことは異例であり、快挙である。故に安美錦の取組には誰が相手でも「何か」を期待させ、相手力士のファンは心の中でざわつくものがあった。もし安美錦の全盛期が10年早ければ、もっと出世していたかもしれない。だが、安美錦がこれほど魅力的な力士だったかは分からない。

■多くの人が涙した記憶に残る一番

2017年九州場所。前年の夏場所でアキレス腱断裂の大ケガを負い、2場所連続休場で引退の危機に立たされ、1年がかりで幕内に復帰した場所。勝ち越しに王手を掛けながら4連敗で千秋楽を迎えた安美錦が、千代翔馬を相手に立合いから右上手を取り、渾身の上手出し投げを決めた一番。39歳1ヶ月の敢闘賞受賞に誰もが拍手し、多くの人が涙した。単なるベテランの復活劇ではなく、安美錦の魅力を見る者が知っていたからこそのハッピーエンドだった。

時代に翻弄されながら、逆境の中で安美錦は独自の相撲道を歩み続け、土俵上で生きざまを見せつけた。突き押し全盛の昨今、吊り出しや、すくい投げといった決まり手が激減しているというデータもある。相撲が簡素化する中で安美錦にしか見せられない「何か」を目撃できたことは幸運といえる。

文=西尾克洋

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放送情報

大相撲いぶし銀列伝 #30 安美錦篇
放送日時:2020年2月25日(火)23:00~
チャンネル:フジテレビONE スポーツ・バラエティ
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。

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