吉沢亮主演の大河ドラマ「青天を衝け」をコラムニスト・吉田潮が解説「資本主義の父・渋沢栄一の原点は百姓の美学と矜持(きょうじ)」
- 文化人・その他
- 2024.03.21
7月3日(水)に発行される新1万円札の顔となる「近代日本経済の父」渋沢栄一。大河ドラマ「青天を衝け」(2021年)では、時代の大渦に翻弄(ほんろう)され挫折を繰り返しながらも、高い志を持って未来を切り開いた渋沢栄一の生涯が描かれ、吉沢亮が13歳から91歳までの渋沢を熱演した。4月4日(木)よりチャンネル銀河で「青天を衝け」が放送されるのを前に、ドラマ好きコラムニストの吉田潮さんに「青天を衝け」の見どころを伺った。
■農民→武士→実業家へ...時代を駆け抜けた男
北大路欣也扮(ふん)する徳川家康のトリッキーなマエセツが話題になった「青天を衝け」。江戸から明治へ、価値観の激変を体感し、多くの偉業を成した割に、あまりよく知られていなかった渋沢栄一が主人公なので、誰もが知る家康を利用して時代背景を解説。狙いは悪くなかった。
渋沢を演じたのは国宝級イケメンと呼び声の高い吉沢亮。朝ドラ「なつぞら」(2019年)では志半ばで早逝した天陽くんを演じて話題に。畑の真ん中で絶命するシーンは、朝ドラ史上で最も絵画的な美しさだったと記憶している。
そんな眉目秀麗な吉沢が時代の変遷に翻弄される渋沢を熱演。まずは百姓青春編。血洗島で藍玉づくりと養蚕を営む裕福な農家の長男だった栄一は、学問にも商売にも好奇心旺盛。猪突(ちょとつ)猛進で「道理に合わない」ことには全力で抵抗。時には、農民が虐げられる理不尽な身分制度に悔し涙を流す場面も。渋沢栄一の思想形成の礎となったのがこの百姓時代でもある。また、いとこの影響で尊王攘夷運動にかぶれ、目を輝かせて夢を語る姿には血気盛んな躍動感もあった。
そしてちゃっかり武士編。一橋慶喜(草彅剛)の側近・平岡円四郎(べらんめえ口調が渋くて最高の堤真一)と偶然出会い、家臣にスカウトされる栄一。運と縁あって念願の武士になれたわけだ。その名も篤太夫(栄一はジジイみたいな名前で最初は不満げ、というのも面白い)。
「え? 渋沢家は大丈夫? 嫁はほったらかし?」と思っちゃうのだが、栄一の両親(小林薫&和久井映見)も嫁(橋本愛)も理解あるのよ、栄一の無鉄砲さに。才覚を信じてくれる家族がいたからこそ、栄一の目覚ましい活躍と栄華につながるわけだ。
藍玉農家で培った商才を発揮、栄一が将軍家の家臣としてパリへ行っている間に、日本は激変。恩人である平四郎が逆恨みで殺されて落命、幕府は倒れて慶喜は謹慎の身に。攘夷にかぶれたいとこたちの中には悲劇の結末を迎えた者もいる。特に尾高家の息子たち(満島真之介や岡田健史)は超絶不運。テロリスト扱いで無慈悲な最期を迎えるのだ。栄一自身は華やかなパリ編と言いたいところだが、栄一の周辺人物の死というダークサイドも対で描かれる。光と影の強調ね。
先進国フランスで経済施策や都市計画まで学んだ栄一は、旧藩体制の財政改革でも手腕を発揮し、新政府で重用される。郵便や商工会議所、銀行などの設立に奔走し、実業家としても成功。「近代日本経済の父」「日本資本主義の父」となるわけだが、支えてくれた家族が清貧の「百姓マインド」を貫いたところがこのドラマの良心に見える。
個人的に好きなのは、豪邸に住む栄一を訪ねてきた両親が戸惑い、息子に対してよそよそしく敬語を使った場面だ。しかも「俺たちは百姓だ。あんな豪華な布団では寝られねぇ」と言って、泊まらずに帰ってしまう。畑を耕し、蚕を育て、厳しい自然と移ろう季節の中で慎ましくも幸せを見つけて生きてきた百姓の矜持(きょうじ)を感じる名場面だ。
もちろん栄一も両親への敬意、「百姓マインド」を捨てたわけではない。父が危篤で駆け付けた栄一は、父が几帳面につけていた帳簿や記録を手に取る。代官や藩士からは下に見られ、蔑まれ、こき使われ、おまけに年貢を取り立てられる。そんな百姓の父が文句も言わず、丁寧に一生懸命に生きた証を見て、「なんと美しい生き方」と号泣するのだ。
今、当たり前に享受している資本主義の礎には、百姓たちの美学とプライドがある。そう教えてくれたような気もしている。
(プロフィール)よしだ・うしお●1972年生まれ。ドラマ好きのコラムニスト兼イラストレーター。週刊誌や新聞でテレビ・ドラマ評を執筆。時々テレビにコメンテーターとして出演。著書「くさらないイケメン図鑑」など著書多数。ネコ2匹と同居中。
放送情報【スカパー!】
大河ドラマ「青天を衝け」
放送日時:4月5日(金)0:00~
チャンネル:チャンネル銀河 歴史ドラマ・サスペンス・日本のうた
※毎週(月)~(金)放送
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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