井山裕太が究極の目標へ!日本囲碁界のエースが七冠の先に見据えるもの

2018年は、再び七冠に返り咲いた井山裕太にとって激動の1年になった。新春から始まった「棋聖戦」では、挑戦者の一力遼を4勝0敗で退けて6連覇を達成。最高のスタートを切ったかに見えた。その棋聖戦挑戦手合を戦っている最中の2月に、大きなポイントがあった。井山は子供の頃から「世界戦での優勝」が究極の目標だった。その夢の舞台、世界メジャー棋戦「LG杯世界棋王戦」の決勝三番勝負に臨んだ。第1局は好局を落とし、第2局は必敗の碁を大逆転して勝利。しかし、第3局を落として世界一になる夢は、あと一歩で現実にはならなかった。

20世紀までは、日本のナンバーワンが世界ナンバーワンだった。ところが、韓国や中国が台頭し、2005年に張栩(ちょうう)が世界一になって以来、日本勢は優勝できない状況が続いている。世界チャンピオンの誕生は日本囲碁界の悲願なのだ。中国や韓国には世界チャンピオンを狙える棋士が何十人もいるが、日本は井山1人といえる。彼はその期待を背負い、プレッシャーがかかる中で戦っているのだ。世界ランクにおける井山の位置は、同じ平成元年生まれのプロテニス選手・錦織圭と重なる。メジャー棋戦ではないが世界戦で優勝経験があり、世界チャンピオンに勝ったこともある。

LG杯決勝で敗れて間もなく、2度目の七大タイトル制覇を果たし、囲碁界初の国民栄誉賞を授賞。しかし、そのあたりから井山の歯車が狂いだす。「十段戦」「本因坊戦」と防衛を重ねるが、井山らしくない戦いが続く。勝ちが見えてから逃す、布石で大きく遅れるなど、特に国際戦は大きく負け越した。国内戦と国際戦を戦い、ほとんど休みのない過酷な日程によるものかと周囲は見ていたが、井山本人は「(体力よりも)気持ちの面できつかった。世界戦で結果が出ず、焦りがあった」と語る。

その影響は国内戦に波及する。初夏の「碁聖戦」で20歳の新鋭・許家元(きょかげん)にストレートで敗れ、タイトルを失い七冠が崩れた。さらに秋からの「名人戦」では、張栩にフルセットの末タイトルを奪われ、五冠に後退してしまう。しかし、ここから失速せずに踏みとどまれるのが井山の強さだ。「王座戦」「天元戦」ともに最終局までもつれるも、タイトルを防衛。五冠を死守して復活の兆しを見せた。

2019年は、井山にとって正念場になるだろう。まだ本来の井山とはいえない状態だが、「いい感覚も少しずつ戻ってきている」と言う。井山が世界戦で活躍する鍵は、井山を脅かす若手の台頭だ。"井山1人エース"の状況を脱することは、井山のプレッシャーを軽くすることにもなる。一力遼や芝野虎丸らが着々と力をつけてきており、今後の活躍に大いに期待だ。5月に30歳になる井山は「今年こそ」と心に秘めているに違いない。井山の究極の目標であり日本の悲願達成を、ファンも今年こそ目撃できると信じている。

文=内藤由起子

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放送情報

第43期 棋聖戦挑戦手合七番勝負 第2局
放送日時:2019年1月22日(火)08:50~ほか
チャンネル:囲碁・将棋チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。

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