全てはここから始まった――現在も世界中で愛され続けている「ゴジラ」シリーズ、その原点は'54年版にある。シリーズ4Kデジタルリマスター企画の第1弾となるファースト「ゴジラ」の魅力を有村さんに語ってもらった。
長い歴史を持ち、さまざまな切り口を内包する「ゴジラ」シリーズ。その根底にあるものは"恐怖"だと有村さんは言う。
「僕のゴジラとの出合いは有楽町マリオンで見た'84年版の『ゴジラ』。劇中でゴジラが有楽町マリオンを破壊するシーンがあるので、めちゃくちゃ怖い思いをしたことを鮮明に覚えていて(笑)。今回放送されるのは'54年のオリジナル版ですが、見返すとこちらも"恐怖"を描いた作品だと分かります。時代は日本が敗戦後の焼け野原から'64年の東京五輪へ向かう、まさに高度経済成長期の直前。子ども向けだった怪獣映画を大人たちが食い入るように見たわけですが、それは人間の手でコントロールできないもの=ゴジラの恐怖をリアルに描いたからだと思います。戦争、原爆、災害。どうすることもできない恐怖に巻き込まれた時に、人間はどう対抗するのか...。なぜゴジラが現れたのか、という議論は尽きませんが、人間に警告を与え、傲慢さを正すために遣わされた破壊の神という考え方もできます。これが単なるモンスターではなく、日本人のアイデンティティーに根付いた存在として愛される理由かもしれません」
ひと目で「ゴジラ」シリーズと分かるさまざまな特徴は、'54年版から連綿と続いている。
「ゴジラの出現という緊急事態に、政府も含めて日本がどういう手順を踏むかを丁寧に描きます。演出面での注目は、序盤ではゴジラの姿を見せない状態で引っ張って、観客の想像力の中で恐怖を増幅させる手法ですね。また、伊福部昭先生による素晴らしい音楽も忘れてはいけません。'54年版の時点で、後のシリーズにつながる多くのフォーマットがすでに完成しています」
そんな名作の4Kデジタルリマスター、見どころは?
「僕はあらゆるソフトが4K対応してほしいと思っていますが、このタイミングで『ゴジラ』が4Kデジタルリマスターされたのがうれしい。きれいな画質によって当時のクリエイターたちが"本当に見せたかったもの"を体感できるのがリマスター版の強みです。例えば、丹精込めて作ったミニチュアやゴジラの造形。CGのない時代に、みんなでアイデアを出し合い、工夫を凝らして作ったものはワクワクしますし、『映画の未来をつくるんだ!』というクリエイター魂にもぜひ注目してほしいです」
ありむら・こん●'76年7月2日生まれ、マレーシア出身。年間500本の映画を鑑賞。最新作からB級映画まで幅広い見識を持つ。YouTubeでは「有村昆のシネマラボ」で本音の映画批評を配信中。
聞き手=山崎ヒロト(Heatin' System)
放送情報
ゴジラ(1954年)〈4Kデジタルリマスター版〉
放送日時:2021年3月6日(土)20:00~
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合あります
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