渡辺明名人に斎藤慎太郎八段が挑戦する第79期名人戦七番勝負が4月7日、8日に東京都文京区「ホテル椿山荘東京」にて開幕する。タイトル戦では初の顔合わせとなった今期の七番勝負の見どころに触れていきたい。
前期、名人戦七番勝負に初登場となった渡辺は豊島将之名人(当時)から4勝2敗で奪取。「中学生棋士」で数々のタイトルを獲得してきた渡辺が名人に縁がなかったのは不思議に思われていたが、ようやくの戴冠となった。
この1年の渡辺は棋聖戦でこそ藤井聡太七段(当時)に1勝3敗で敗れて最年少タイトルを許したものの、続く先述の名人戦で勝利。さらに年明けには王将戦七番勝負で永瀬拓矢王座に4勝2敗、棋王戦五番勝負で糸谷哲郎八段に3勝1敗と、安定した強さを見せている。これまで年下にタイトル戦で敗れたのは藤井のみと、若い世代にとって最大の壁になっている。タイトルに関しては谷川浩司九段の獲得数27期を越え、28期の歴代4位となった。次は中原誠十六世名人の持つ64期にどれだけ迫れるか、また今後記録を伸ばしてくるであろう藤井聡太二冠にどれだけ差をつけておけるかだろう。
一方の斎藤はA級初参加ながら開幕から白星を伸ばす。5回戦で豊島将之竜王に敗れたものの勢いは止まらず、8勝1敗の単独首位で名人挑戦権を手にした。斎藤のタイトル挑戦は2018年の第66期王座戦以来3度目で、2日制の登場は初めてだ。
特に順位戦での成績が安定しており、初参加が第71期だったことを思うとかなりのスピードである。また、年度末にはNHK杯将棋トーナメントで準優勝するなど、早指しでも結果を出しつつある。そのルックスや佇まいから女性ファンも多く、実力だけでなく人気も非常に高い。
居飛車党の両者だけに角換わり、矢倉、相掛かりが中心となるシリーズが予想される。防衛戦、特に2日制においては抜群の安定感を誇る渡辺に斎藤がどこまで食らいついていけるか。斎藤は2日制の対局こそ初めてだが、かなりの長考派でもあるので長い持ち時間を持て余すことはないだろう。
過去の対戦成績は意外にも少なく、渡辺から見て3勝2敗。大きなところでは王座戦の挑戦者決定戦で、勝った斎藤がそのまま五番勝負も勝って初タイトルを手にしている。直近では3月に棋聖戦の決勝トーナメントで対戦し、渡辺が快勝している。
昨年の名人戦はコロナ禍による緊急事態宣言により、開幕が2ヶ月以上遅れることとなり、予定していた対局場を使えず将棋会館での対局も多かった。今期は東京での開幕局を皮切りに各地を転戦するが、無事に開催されることを祈るばかりだ。初の名人防衛か、初の名人奪取か、新鮮な七番勝負だ。
文=渡部壮大
放送情報
タイトル戦 徹底解説 #925 第44期 棋王戦第1局 渡辺 明棋王 vs 広瀬章人竜王
放送日時:2021年4月2日(金)15:00~
チャンネル:囲碁・将棋チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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