百折不撓の棋士、木村一基九段が大舞台に戻ってきた。ベテランの木村が再びタイトルを手にするか、永瀬拓矢王座が自身唯一のタイトルを死守するか。第69期王座戦五番勝負は注目のシリーズだ。
木村は2019年に悲願の初タイトルである王位を獲得、初タイトル獲得の最年長記録を更新した。史上最多の7度目の挑戦でのことだった。しかし翌年は挑戦者に藤井聡太七段(当時)が名乗りをあげ、ストレートでの失冠。年齢的にも今後の大舞台への復帰は難しいとも思われたが、その後も気を落とすことなく活躍を続けた。
今期の王座戦では挑戦者決定戦で佐藤康光九段とのベテラン対決となり、王座戦では2008年の第56期以来、13年ぶりの挑戦を決めた。将棋はスポーツと比べると選手生命が長いとは言え、それでも40代後半となると超一流棋士でもタイトル戦にはほとんど出られなくなってしまう。40代後半で初タイトルを手にし、失っても再び番勝負に出てくる木村がいかに研鑽を積んでいるかが分かるだろう。
一方の永瀬は、前期の王座戦五番勝負で久保利明九段をフルセットの末に退けてタイトルを初防衛し、同時に九段に昇段した。各棋戦で安定した活躍を見せているが、このところは渡辺明名人や藤井聡太二冠に番勝負や挑戦者決定戦で敗れ、タイトルを増やすには至っていない。トップ戦線に残るためにも唯一のタイトルを失うわけにはいかないだろう。永瀬は将棋界随一の勉強量を誇る努力家と呼ばれ、豊富な研究量を生かして、どんな戦型になっても安定した序盤戦術を見せる。そして中終盤になると指し直しもいとわないタフさも持ち合わせ、タイトル戦でも度々持将棋や千日手になっている。敗れはしたものの、昨年の第5期叡王戦七番勝負で持将棋2回、終盤での千日手指し直しを含めて10局も対局したことは今後も長く語り継がれるだろう。
過去の対戦は意外にも少なく、3勝3敗の五分。両者ともに居飛車党のため矢倉、角換わり、相掛かりが中心となるシリーズになるだろう。だがこの1年の永瀬は時折角道を止める振り飛車を投入することもあるので、番勝負の展開によっては居飛車対振り飛車の対抗形も見られるかもしれない。棋風はどちらもしのぎに定評のある受け将棋。苦しくなっても勝負を諦めずに徹底抗戦し、入玉将棋も多い。長手数の熱戦となることは確実だ。
注目の五番勝負は9月1日に宮城県仙台市「ホテルメトロポリタン仙台」にて開幕。世代の異なる努力家同士の熱い戦いとなる。根性の永瀬か百折不撓の木村か、勝利の女神はどちらに微笑むだろうか。
文=渡部壮大
放送情報
タイトル戦 徹底解説#994 第68期 王座戦 第5局 永瀬拓矢王座 vs 久保利明九段
放送日時:2021年9月8日(水)4:48~
チャンネル:囲碁・将棋チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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