
『十三人の刺客』といえば、今となっては三池崇史監督による2010年版(東宝)を思い浮かべる人が多いかもしれない。ヴェネツィア国際映画祭でも上映、国内外の有名映画賞を多数受賞したヒット作だ。また、昨年(2020年)にはNHK BSでドラマ化されたが、こういったリメイクでのみ親しんでいる方々こそ、ぜひ1963年のオリジナルをご覧いただきたい。
■カルト的人気を博した、「実録路線」の原点
監督は当時34歳、新進時代の工藤栄一(1929年生~2000年没)。東映の時代劇がチャンバラ活劇の様式から離れ、生々しいリアリズムを志向した一群――「集団抗争時代劇」の嚆矢となった代表作である。政情を憂う男たちのテロリズムを主題とし、ひとりの特権的なヒーローが活躍するのではなく、チームワークで敵を討とうとする構造。実は初公開当時、興行的には惨敗だったが、作品の評価は極めて高く、工藤はヴァイオレンスを強化した傑作『大殺陣』(1964年)、さらに『十一人の侍』(1967年)を発表する。この三部作は、のちに『仁義なき戦い』(1973年/監督:深作欣二)など東映ヤクザ映画へと引き継がれた「実録路線」のハシリでもある。
黒澤明監督の『七人の侍』(1954年)や『用心棒』(1961年)、『椿三十郎』(1962年)などが万人に愛される名作だとしたら、『十三人の刺客』は中級以上の時代劇ファンから熱狂的な支持を集めるカルト・クラシックの筆頭と言えるだろうか。
物語はシンプルだ。時は弘化元年(1844年)。江戸幕府の注意が届かない暴君を密かに排除するため、老中が武者に暗殺を命じるという作戦の模様が大枠である。

(C)東映
この命懸けの任務を請け負ったのは、ベテランの旗本・島田新左衛門(片岡千恵蔵)。彼は藩主暗殺を確実に遂行するべく、自身の甥っ子である島田新六郎(里見浩太朗)、徒目付組頭の倉永左平太(嵐寛寿郎)、島田家食客の平山九十郎(西村晃)、浪人の佐原平蔵(水島道太郎)など腕の立つ者をかき集めて、13人からなる少数精鋭の刺客集団を結成する。

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最大の見どころは、史上屈指の名シーンとして知られるクライマックス。敵の一行を襲った刺客たちが「13人対53騎」の死闘に挑む30分以上の大乱戦である。壮絶かつ凄惨を極める必死の斬り合いを、手持ちカメラによるドキュメンタリー・タッチで捉えていく。監督の工藤と、脚本家の池上金男(のちに「池宮彰一郎」名義で『四十七人の刺客』など歴史小説を多数発表)は同時代を騒がせた六〇年安保闘争の影響を強く受けていたという。

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■観る者に強烈な印象を残す悪役・松平斉韶
オールスターキャストの映画ではあるが、劇中設定としては無名性に殉じて散っていくことが暗黙のルールとされた本作の戦い。その中で、結果的に役者として最も目立ったのは敵側のボス――将軍・徳川家慶の弟でもある暴君、播磨明石藩主・松平斉韶を演じた菅貫太郎(1934年生~1994年没)だろう。その変態的な異常人格ぶりは強烈なインパクトを放ち、以降、この斉韶役がロールモデルとなる形で、菅貫太郎は映画やテレビ時代劇の悪役(「馬鹿殿さま」や「悪代官」といった類)の常連となっていった。『十一人の侍』でも松平斉厚役で怪演を見せたが、むしろ『必殺』シリーズや『大江戸捜査網』、『暴れん坊将軍』などでの彼の姿を記憶している人が多いのではないか。
ちなみに三池崇史監督のリメイク版では、稲垣吾郎(当時SMAP)が松平斉韶に扮し、自身のイメージを大きくぶち破るサディスティックな快演が話題となった(ただしこの極端なキャラクターはあくまでも創作であり、史実に残る斉韶の人物像とは別もの)。のちの時代劇に多大な影響を与えた偉大なる源流として、『十三人の刺客』が生んだ数々の「発明」を再発見していただきたい。
文=森直人
森直人●1971年生まれ。映画評論家、ライター。著書に「シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~」(フィルムアート社)、編著に「21世紀/シネマX」「シネ・アーティスト伝説」「日本発 映画ゼロ世代」(フィルムアート社)、「ゼロ年代+の映画」(河出書房新社)など。YouTubeチャンネル「活弁シネマ倶楽部」でMC担当中。映画の好みは雑食性ですが、日本映画は特に青春映画が面白いと思っています。
放送情報
十三人の刺客
放送日時:2021年11月9日(火)21:30~、28日(日)15:00~
チャンネル:東映チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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