サンキュータツオが語る、アニメ監督・新海誠の世界

映画『君の名は。』に続き、『天気の子』も大ヒットを記録したことも記憶に新しい新海誠監督。次世代のアニメーション監督として高い評価を受けている新海監督作品の魅力をサンキュータツオさんに聞いた。新海誠といえば、今や誰もが知っているアニメ監督と言っても過言ではないだろう。

「もともとはアニメファンの中だけで名の知られている監督でした。ファン以外の人が存在を認識したのが『君の名は。』ですね。これまで監督は一見アンハッピーエンドに見える作品を描き、切なさこそが新海誠のアイデンティティと思っているファンも多かった。ですが、切なさを全体で表現するのではなく、物語の途中に入れたのがこの作品。ハッピーエンドを描くことで、より多くの人に受け入れられたと思います」

映画『天気の子』より

(c)2019「天気の子」製作委員会

昨年公開の『天気の子』は、「『君の名は。』では描けなかったこと、そして商業デビュー作『ほしのこえ』から『言の葉の庭』までの間で監督が取り組んできた要素がすべて詰まった、いわば集大成のような作品だ」という。

「一番色濃いのは、光の表現ですね。僕は、監督は光と影の反射フェチだと思っています(笑)。『秒速5センチメートル』では、暗い教室で電気をつけた時に蛍光灯の明かりがまばらについて床に反射する光や、夜の寂しい駅舎にある自動販売機の無機質な光。『言の葉の庭』は太陽があまり出てこない作品なので、水滴が落ちて、地面や水面に反射するというこだわりを見せた。『天気の子』は、東京を舞台に雨を全面に押し出した作品ですが、光の描写も素晴らしい。多くの映像作品は、地方の田園風景に美しさを求めがちです。ですが、ビルに反射する光や、水溜りに映る景色などを使って都会を奇麗だと思わせてくれる唯一の監督ではないでしょうか。描く風景は写実的で無機質ですが、これらは手書きでは難しかったCGならではのもの。日本のCGの頂点といってもよく、その映像美は音無しでも楽しめます」

映画『秒速5センチメートル』より

(c)Makoto Shinkai/CoMix Wave Films

なぜこんなにも、新海誠作品にハマる人が多いのか。

「昔の作品ほど、監督はヒリヒリした恋愛模様を描いていたんです。初恋のドキドキや、恋心を抱く以前の微妙な関係性が描かれていることが多かった。登場人物の同世代が共感するのはもちろんですが、大人でも刺さる人が多い。なぜなら初恋や淡い恋心は、大人になればなるほど忘れてしまう、取り戻せない感覚だからだと思うんですよね。一方で最近の作品では、それらが抑えられている気がします。メジャーになった監督が今後どんな物語を描いていくのか、次回作こそが本当に描きたいことになるのでは、と思っています」

映画『君の名は。』より

(c)2016「君の名は。」製作委員会

サンキュータツオ●'76年生まれ。漫才コンビ「米粒写経」として活動しながら、大学では言語学などの非常勤講師も務める。アニメなどサブカルチャーにも造詣が深い。

取材・文=横前さやか

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放送情報

■新海誠監督作品を一挙放送

秒速5センチメートル('07年)
放送日時:2020年10月3日(土)15:00~
チャンネル:WOWOWプライムほか

雲のむこう、約束の場所('04年)
放送日時:2020年10月10日(土)12:30~
星を追う子ども('11年)
放送日時:2020年10月10日(土)15:10~
言の葉の庭('13年)
放送日時:2020年10月10日(土)17:10~
君の名は。('16年)
放送日時:2020年10月10日(土)18:00~
チャンネル:WOWOWシネマ

天気の子('19年)
放送日時:2020年10月10日(土)20:00~
チャンネル:WOWOWシネマほか

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