1900年にロシアの作家アントン・チェーホフが執筆した戯曲「三人姉妹」。高級軍人だった父の死後、つましくなりゆく暮らしの中で故郷モスクワへと思いをはせる姉妹の姿を描いた物語だ。100年以上にわたり世界各国で愛され続け、劇団民藝や俳優座、文学座など日本を代表する演劇集団も上演されてきた。そして、ことしの1月17日~2月4日、乃木坂46メンバーが主演で、東京・銀座博品館劇場で上演され、その公演が5月13日(日)、TBSチャンネル1にて初放送される。
物語の中心となる姉妹を演じた乃木坂46メンバーは、衛藤美彩(長女・オリガ役)、伊藤純奈(次女・マーシャ役)、久保史緒里(三女・イリーナ役)。それぞれグループの1期生、2期生、3期生という立場であり、その関係性は姉妹という設定にはもってこいだと言える。
長女役の衛藤が妹たちへの静かなる愛情を表現
三姉妹の長女で教師でもあるオリガを演じた衛藤は、三宅裕司が主宰する劇団SET(スーパー・エキセントリック・シアター)の創立35周年記念公演「Mr.カミナリ」(2014年)で初めて本格的な舞台を踏んだ。2015年には乃木坂46の舞台「じょしらく」に、2017年には映画化と舞台化が同時に進行し話題となった「あさひなぐ」に出演。後者で彼女が演じたのは、主人公・東島旭(齋藤飛鳥)たちにとって最大のライバルとなる國陵高校薙刀部の寒河江(さがえ) 純。薙刀の実力は折り紙つきだが自己中心的で身勝手な言動が多い後輩・一堂寧々(生田絵梨花)を静かに見守るという役どころだった。原作コミックでも"冷静でいながら強さを秘めた女性"として描かれているこの役を見事に演じ、「イメージ通り!」と高評価を受ける。今作では姉妹への静かなる愛情を表現する一方で、その行く末を案じて思いにふける場面が多く、その横顔が印象的で美しい。
次女役の伊藤(純)が危うげな人妻を好演
次女のマーシャは唯一の既婚者で、その結婚を悔やみ続けているという設定。これを演じた伊藤は、2016年に上演された舞台「墓場、女子高生」で女優として一気に覚醒した。乃木坂46のメンバーが多数出演しながらもアイドル性は薄く、"死者との決別"をモチーフにしたこの作品の中で彼女が演じたのは、緊迫した場面で登場し、場の空気を一変させるオカルト部の部長というトリッキーなキャラクターだった。ある意味で"おいしい役"ではあったが、それをしっかりとおいしく演じきり「純奈にしかできない役!」とファンに言わしめた。このときの演技は多くの関係者にも評価され、翌2017年には「犬夜叉」「MIDSUMMER CAROL ガマ王子 vs ザリガニ魔人」「牙狼〈GARO〉神ノ牙 覚醒-KAMINOKIBA MEZAME-」の出演へとつながった。現在19歳ながら、学生時代から"年齢詐称"というニックネームが付けられるほど大人びた雰囲気を持っており、今作では危うげな人妻としてのマーシャを好演している。
久保が舞台そしてモデル経験を生かして末っ子役を熱演
16歳ながら20歳の三女役に挑んだ久保
三女のイリーナは、モスクワへの帰郷と真に愛する男性との出会いを夢見る乙女。原作では20歳という設定のため、16歳の久保にはやや荷が重いかと思われたが、三姉妹の末っ子という点でその魅力は大いに生かされた。乃木坂46の3期生として2016年9月にグループ入りしたため、姉役の二人と比べると演技経験は少ない。ただし、グループ加入からわずか半年たらずで出演した舞台「3人のプリンシパル」(2017年)で早くもその才能を発揮。同作は一幕で自己PRやエチュード、演技審査が行われ、会場に集まった観客の投票によって二幕への出演が決まるという異色のステージ。用意されたのは3役のみで、観客の審査によっては全15公演を通して一度も二幕の舞台に立てない可能性がある中、久保は11公演で役を勝ち取った(メンバー12名の中で最多の出演)。その後、3期生全員が出演した舞台「見殺し姫」(2017年)で再びステージに。現在、ティーン向けファッション誌「Seventeen」の専属モデルを務めており、その経験も"表現者"としての成長に一役かっているかもしれない。
今年1月、「三人姉妹」の初日を前にした会見の席で、演出を担当した赤澤ムックが「全員がこの作品と向き合ってしっかり稽古できたので、初対面の印象を忘れてしまいました。3人とも"女優"としての印象しかありません」とコメントした。そんな三人の演技もさることながら、「肌の露出が年齢順です」と衛藤が笑いを誘った衣装などにも注目。乃木坂46という窓口を通して、シックでありながら華やかで、気品の中にもの悲しさが漂うチェーホフの世界を味わっていただきたい。
文=大小田真
放送情報
舞台「三人姉妹」
放送日時:2018年5月13日(日)20:00~
チャンネル:TBSチャンネル1 最新ドラマ・音楽・映画
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。
詳しくはこちら